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  • 2017.12.22

ドラマチックな人生にしなくていい。23歳看護師が「今が楽しい」と言える人生を送るようになるまで

「私の話、面白くないですよね」と語る23歳看護師ハルコちゃん。彼女は自分の願いではなく、とある理由で看護師学校に進み、看護師となる。それでも彼女がいつも精一杯で、ものすごくバランス良く生きているのはなんでなんだろう。脚本家・舘そらみが本気なやつらにインタビューする本企画、今回は看護師ハルコちゃんに迫ります。

 好きな仕事をしている人は幸せだ、とよく言われる。でも、例えその仕事自体が好きじゃなくても、「その仕事をしている自分が好き」ならば毎日楽しいのかもしれない。そんなことを感じさせてくれる出会いがあった。

 普通と少し違う人生を走るアンダー25を追う「12人のイナセなわたしたち」、第6回の今回は、看護師3年目のハルコちゃんに話を聞いた。

12人のいなせなわたしたち第6回:看護師のはるこさんの画像

ハルコ、23歳看護師の場合

 「今までの人たちみたいに面白い話なんて出来ないですよー」と照れながら、自宅に案内してくれたハルコちゃん。
23歳の女の子の部屋、と聞いてイメージするようなキャピキャピ感とは程遠く、そこは機能性重視の新築マンションだった。

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 必要最低限の家具とダイエット器具以外は全て綺麗に収納されている。
クローゼットを開けると、黒や茶色といった落ち着いた洋服たちの横に、医療関係の専門書と聴診器が入っていた。

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 私たちを前にしても緊張する素振りは見せず、軽快な相槌を打ってくれる。
今までの子たちがどこかしら気を遣わせるオーラを放っていたとすれば、ハルコちゃんは、一緒にいて「落ち着く」ムードをまとっていた。
出してくれたお茶を飲み干し、早々に飲み屋へと移動した。

他に道がなかったから、看護師を目指した

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「地震があったら山に飲み込まれそうなほどのど田舎で生まれ、ひと学年11人の小学校で育ちました」

 四国の山奥で、共働きの両親と4歳下の弟とともに育ったハルコちゃん。裕福ではないながらも、家族の時間を大事にする家庭だったという。


「父親の影響でカーレースが大好きで、だから小さい頃は整備士になりたかったですね」

 そんなハルコちゃんが看護師を目指したのは、実は、全く彼女の意思では無かった。それは、中学生の途中で不登校になったことに起因する。

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「中学になってひと学年80人の環境になり、うまく立ち振る舞えなかったんですね。それでいじめにあって、学校に行けなくなっちゃって」

 最初は怒っていた両親も、時が経つにつれ受け入れてくれた。しかし、高校進学の段になり問題が発生する。地元の高校は、同級生たちがそのまま進学するという。また不登校になるだけだと思った。


「違う学校に行かせてもらうためには、親が納得する理由が必要だった。それが、看護学校だったんです」

 ハルコちゃんは、同級生から逃げるために、看護師を目指すことになった。


「片道2時間かかるし、バスの本数は少なくて部活もできないし、勉強も大変だし。でも、なにくそ! と思って通い続けてましたね」

 その頃のハルコちゃんの原動力は、中学の同級生たちを見返したいという思いだった。


「中学の同級生に“今何やってんの?”って聞かれた時に、自信を持って答えられる私で居たかった。中学をまともに通えなくてもちゃんと人生歩めるんだ!って、見返したかった。これ以上、人生を休みたくなかったんです」
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 そんな思いで学校に通い続けた。するといつのまにか楽しくなり、5年間の高等専門学校教育を走り抜け、国家試験にも合格し、20歳にして人の命を預かる仕事に就いた。

無我夢中で仕事をした先で
ふと責任の重さに気付く

「初めに配属されたのはICU。いくら勉強してきたと言っても、看護師1年目なんて単なる素人ですから、もう伝書鳩くらいしか出来ないんですよね」
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 最も緊急性が高いICUに配属され、何をしていいかも分からない毎日が半年は続いた。


「半年くらい経って初めて、“人の命を預かるなんて私には荷が重すぎる”って、一度本当に辞めたくなりました。でも、周りの人に支えられてなんとか乗り越えられて」

 仕事を任されるようになって初めて、責任の重さに気がついたという。逆に言えばそれまでは、そのことも分からないほどに目の前のことだけを必死にこなしていた。
高校時代から付き合っていた彼氏に連絡を返していないことすら忘れるほどに、ただただいっぱいいっぱいの毎日だったという。

 そこから3年、ハルコちゃんは現在進行形でバリバリ働いている。
経験年数がモノを言う世界、年上の後輩たちに指導をすることもあるという。
さらに今は、小さい頃から好きだったカーレースを思いっきり楽しむ余裕まである。


「カーレースは音も匂いも最高なんですよ! みんなみんな行ってみてほしい! 絶対楽しいから!」

 今にも泡を吹きそうなくらいにカーレースのことを力説する。働いたお金で趣味も精一杯。なんてバランスの取れた毎日だろう。

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 最近別れたという彼氏のことも、最近行ったという合コンのことも、はたまたお金を払うだけで行けてないという英会話スクールとジムのことも、ケタケタと笑いながら話してくれた。

 伝わるだろうか、健康なのだ。普通に楽しそうで、普通に恥ずかしそうで、普通に愚痴もあって、なんだか全てのバランスが取れているように見えた。ガッツリ仕事をして、ドワーっと遊ぶ。理想的な毎日に見える。

 今までインタビューした女の子たちとのこの大きな違いはなんなんだろう。ハルコちゃんのインタビューなのに、思わずそんな比較をしながら話を聞いてしまった。
だって、今までの子たちの方が「やりたい仕事をやって」いたのに、でも目の前のハルコちゃんの方が比べようもなく幸せそうなのだ。
その分かれ道はどこなんだろう?ハルコちゃんはどうしてこうなれたのだろう?好きで始めたわけではないのに、そして大変だろうに。
看護師という仕事を、どう捉えているのだろうか。

目指したわけじゃないけど、仕事が毎日発見をくれる。

「憧れで始めてたら逆に辞めてたと思います。でも私は、あとがなかったから看護師になった。大きな挫折から始まってるから、もうやるしかないですよね。始めたのは、私なんですから

 選んだわけではない看護師の仕事。でもその仕事こそが、今ハルコちゃんの毎日の根幹になっている。

 ハルコちゃんは続ける。

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「人に感謝されるからいい仕事だ、とか正直そういうことじゃない。だって、それでお金をもらってるのに、感謝されたいとか思うのはなんか変な気がします。私は正直、自分の成長が楽しいんです」

 成長することで患者さんにも還元されるし、両者にとっていいことしかないですもん、とハルコちゃんは続ける。
ハルコちゃんは今、同期の誰よりも熱心に仕事に取り組んでいる。分からないことがあったら自分で調べ、医師に教えを乞いに行く。自費で講習会にもよく出席しているという。


「自己研鑽しなきゃやっていけないし、それこそがやりがいなんですよね。新しい知識がついてそれが発揮されて、毎日が新しい発見の連続なんです。“やった、前回できなかったことが出来た!”となればとにかく嬉しいし、次はもっといい仕事をしよう、と思います。」
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 「日々の成長が楽しい」「発見が快感」とハルコちゃんは何度でも繰り返す。話を聞いてるうちに、ハルコちゃんが看護師になった動機なんて、どうでもよくなってくる。
だって目の前にいる彼女は、ものすごくしっかりした口調で医療のことを語り、どっからどう見ても看護師という仕事に興味深々だ。誇りさえ、感じられた。


「看護師ってことで患者さんに信頼されるし、知識がある専門職だからこそ役に立てていることもあるし、自信をもっていきたいなって。」

 ハルコちゃんが年末に帰省することが決まると、老人ホームに入居している祖父も年末を実家で過ごすことが決まった。ハルコちゃんが居てくれれば大丈夫、という家族の安心の現れだ。趣味のカーレース場でも、選手の手当てなどを手伝うこともあるという。
彼女は、看護師という仕事をしっかり背負って生きている。
なりゆきの仕事が、いつのまにか彼女に自信をつけさせていた。

過去はいくらでも変えられる

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 ハルコちゃんとの飲み会は、朗らかで楽しかった。大きな驚きやショックは無かったが、ずっと素直に「へえ」と楽しく聞いていた。いっぱい笑った。
その会話のほとんどは、きっと私が数日で忘れるものだったけど。

 そう、確かにハルコちゃんの半生は、ドラマチックには聞こえなかった。
でもそれは、ハルコちゃん自身がドラマチックに語らないだけの話。 “いじめで病んで引きこもりになって、でも奨学金を返さなきゃだから看護師を辞められない”っていくらでもドラマチックにできるけど、ハルコちゃんは絶対そんな風には言わない。


「中学時代の同級生には本当に会いたくなかったけど、それじゃいけないと思って成人式の二次会に行ったんです。私にとって、過去へのこだわりとの決別の日でしたね」  

 自分の人生の、要らないところはちゃんと切り、引きずらない努力を重ねている。過去をドラマチックにして浸っていてもしょうがない。
「いじめられたから、看護師の仕事に出会えたんだけどね?」なんていじわるな質問をすると、「そうなんですよねー」と悔しそうに笑った。もちろん、「ま、決して感謝なんてしないですけどね、でも、もう見返せたんで大丈夫です」と続けた。

 ちゃんと毎日自分と向き合ってる人間だなーと思う。
ちゃんと悩んで、そこから浮上しようとして、先に進んで行く。


「10年後も、楽しく頑張れてたらいいですよね。20年後も…同じでいたいです。“ま、いいや”と考えちゃう風にはなりたくないかな」

 将来について、そう語った。具体的な目標は特にない、と言う。

 具体的な目標がない彼女は志が低いのだろうか。
そんな風に言う人の、どれだけが彼女より頑張れているのだろうか。
「結婚もしたいし子供も欲しいですけどね」と付け足すハルコちゃんは、今日も飲み会に行き、でもちゃんと早めに帰宅し、万全の体調で出勤する。

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 2017年冬、真っ当に生きる女の子に出会った。
確かに彼女の行き方は派手じゃない。
でも、“毎日成長を感じられるから、仕事は楽しいですよね”なんて言える生活、どれだけの人ができているだろうか。
目の輝きが変わるほどの趣味を持ち、お金を投じているだけの英会話スクールとジムに後ろめたさを感じ、モテたいと縁結び神社に友人と行く。
そして、毎日患者さんと健康に接する。生活に無理がないレベルの勉強を続け、日々成長を実感している。
とても素敵な生き方に見えた。

 派手じゃないし夢見て選んだ仕事じゃないけれど、99%の人間の人生は地味なもんじゃない? 派手な人生だけを見つめてウダウダしてるくらいなら、ハルコちゃんのように生きてみたいな、そんな風に思った。それじゃ足りない? そう思うなら、何か一個始めてみればいい。


「私の話、面白くなかったですよね? あはは」

 確かに、面白くはなかった。でも、すごく面白かった。すごく人間くさかった。私は、彼女の人生が好きだ。

 あなたは、どれだけ自分の身の丈をわかって生きたいですか? そこにまだ見ぬ幸せがあったりするのかもしれない。隠されているかもしれないのかな。

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Text/舘そらみ

次回は<20歳のインフルエンサー妹尾ユウカインタビュー 私たちはこれからも彼女の毒とズルさに踊らされ続ける>です。
「他人なんてどうでもいい」と語る20歳のインフルエンサー妹尾ユウカさん。世間が求める毒っ気たっぷりで、強くてズルい女である。しかし、急に顔を覗かせた彼女の本音は・・・。脚本家・舘そらみが本気なやつらにインタビューする本企画、今回は妹尾ユウカさんに迫ります。

ライタープロフィール

舘そらみ
脚本家・俳優。1984年神奈川県生まれ、トルコ・中米育ち。映画「私たちのハァハァ」の脚本を執筆。Twitter:@_sorami
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