おかず交換会の内容は……

そのゲストハウスの特徴は「おかず交換会」でした。それぞれが食べ物を持ち寄って、宿の人も含め、わいわいとおしゃべりしながらの夕食会が、毎晩開かれているというのです。もちろん参加するもしないも自由ですが、せっかくなので我々もそれに参加することにしました。

「夜はパーティー!」と張り切って、道中に寄った道の駅で、ご当地グルメのひとつである天ぷらや、チキアギというさつまあげのようなものを買い求め、「あとはアグー! アグー豚を買おう!」と盛り上がっていた時のこと。ふと気がつきました。1泊2,500円のゲストハウスのおかず交換会に、そんなに豪華な食べ物が出るわけがない。

「ちょっと待って。今夜の宿って、基本的に旅行代を節約したい人たちが泊まっているから、晩御飯持ち寄りっていっても、あまりご馳走は期待できないような……」
「その可能性、ありえすぎる!」

とにもかくにも一度宿に寄って、様子を見た後、夕食のメインメニューを考えることにしたのです。

果たしてわたしたちが予想した通りでした。宿の共有スペースで何をするのでもなく、ぼんやりとくつろいでいるのは、ぬぼーっとした男性ばかり。「よし、アグーではなく、チャンプルー(沖縄の炒め物のこと)にしよう」と方向転換。スーパーに豆腐ともやしと卵、それに普通の豚こま肉を買いに走ったのでした。

夜になって、宴が始まりました。テーブルに並んでいるのは、切ったバナナ、何もかかっていない素のパンケーキ、キノコの炒め物、豆とレタスのスパゲッティ、タコなしのたこ焼き。

予想していたことですから、メニューの質素さは仕方ありません。一番気になったのは、宿の女将とスタッフ2名もテーブルについていて、しかもその3人が、料理を1品も提供していないことです。

なのに食べています。ガツガツ食べています。「わー、チャンプルーなんて、沖縄っぽいねぇ」なんて言いながら食べています。チャーハンや焼きそばくらいは、宿が用意してくれるんじゃないのかな、なんてことを期待していたわたしたちが甘かった。

途中、トイレに中座すると、スタッフ募集の張り紙を見つけました。いわく、スタッフ陣は1か月交代制のボランティアで、3食飯付き酒飲み放題だけど無給。なるほど。そのうちの1食は宿泊客が持ち寄ったもので済ませるってなかなかすごいシステムです。考えた女将、天才か!

でも最終的な感想は……

とはいうものの、目の前は誰もいないビーチが広がるという絶好のシチュエーションで、宿のインテリアも可愛らしく、1泊2,500円というお値段にしては快適でした。それに、日本のどこかにこういう場所があるってことを知っておくのも悪くはない。何もかもが嫌になって、でもお金もなくて、というときも、いざとなれば、泊まる場所と1日3回の食事と、おまけにお酒まで1か月は保証されるのです。

ちなみに「おかず交換会」では、自己紹介タイムがありましたが、3分の1くらいの人が現在無職でした。無職で旅行って、それなりに心が強くないとできないことだと思うのですが、それができる人がこんなにいる。そう思うとさらに勇気を貰えた気分です。いつかわたしも無職になったら、必死になって次の職探しする前に、のんびりと沖縄を旅するような、気の大きさを持ちたい。

Text/大泉りか

次回は<トイレ盗撮犯に同情するオッサンと話したときのこと>です。
数年前のクリスマスに、大泉りかさんがホームレス男性に投げかけられた言葉。そして、共通の知り合いがトイレの盗撮で逮捕されたと知ったときの元カレの言葉――。「わたしはもう、オッサンの承認はいらない」と決別するための記事です。