ドキュメント・幼児連れの外食

オーダーしていたピータンが最初にテーブルに到着し、手を伸ばす息子。その瞬間、「1歳半の赤ちゃんにピータンなんて食べさせていいのか?」という疑問が頭に浮かびます。

茹でた卵は食べさせていて、アレルギーもないけど、生卵はまだだし、そもそもピータンってどのような状態なのか。しかも新宿の中華料理屋でピータンにあたったことがあるわたしとしては、あまり子どもには食べさせたくない。ですから、「あげていいの?」と聞く夫に、「いや、これはやめておいて。すぐに他の料理来るだろうし」と伝え、ピータンを食わせろと騒ぐ息子を連れて、いったん外に出ました。

「ビールが温くなっちゃうな」と思いながら、しばらく外で時間をつぶし、そろそろ他の料理も揃ったであろうタイミングで店内に戻ると、一番楽しみにしていた魯肉飯が届いていました。肉好きの息子はきっと気に入るはず! と思いきや、本格的すぎて八角の匂いが強く、一口食べてすぐに吐き出し、「あー、あー」と騒ぎながら、またもピータンに手を伸ばします。ああ、もういいか、ピータン食わしちゃおうか……と心が折れかけたその時、「えっ、それ、食べさせないんじゃなかったの?」と夫。

「もういいかと思って」
「でも、さっき、あげたくないって言ってたじゃん。いいの?」
って、もうにっちもさっちもいかない状況だから、考えを改めたんだけど、それを説明する余裕はない。そもそもなんでわたしばかりがひとりであくせくしないといけないわけ?

思わずキレて、「もういいよ!わたしがまた外に連れていけばいいんでしょ!」と吐き捨てて、暴れる息子を抱えて、財布を持って外へ。近くのコンビニでスナック菓子を買い、息子に食べさせると、ようやく静かになったものの、ご飯の時間にお菓子をあげてしまったことにへこみながら再び店へ。

息子はスナック菓子をむしゃむしゃと食べながらご満悦ですが、一方の夫は「さっきのなんなの? ああいう言い方はないんじゃない?」とわたしの態度に腹を立てています。確かにその通りなんですが、そこに至るまでのあれやこれやを説明する気力もありません。ごめんなさいわたしが悪かったですと謝って、続いて出てきた三杯鶏(土鍋に入った鶏の醤油煮込み)を息子に分けてみるも、さっきの魯肉飯で完全に不信感を抱いているせいか、口もつけません。

スナック菓子だけでお腹が膨れるわけもなく、遅かれ早かれ騒ぎ出すのは目に見えています。そこで、確実に息子も食べられる餃子を追加オーダー。ありがたいことに、餃子はすぐに到着しました。早く餃子を食わせろと騒ぐ息子をあやしつつ、熱々だと危ないので冷めるように餃子を分解。やっと息子にあげると、夢中になって食べています。

これでなんとかリカバリーできる! とようやく人心地ついた思いで、泡の消えたビールを飲み、熱々の餃子をつまみました。美味い。超本格的な魯肉飯も美味い。初めて食べたけど、三杯鶏も美味い……が、それも束の間の平穏でした。

あっという間に餃子を食べ終えた息子が、もっとくれとリクエスト。ところが、5つあったはずの餃子がもうない。わたしは1つ、息子が2つ、夫も2つ……あー、なんとなくほっとしたノリで食べてしまったけど、餃子は息子にとっておくべきだった。夫にも、「これは息子用だから、食べないでね」と注意しておけばよかった。

後悔しても、時すでに遅し。これから餃子を再オーダーして届くまでの間、騒ぎ続けるであろう息子をなだめるほどのパワーゲージは残っていません。夫も空気を読んだらしく、どちらからともなく「……出ようか」と言うことになり、気まずさと疲労感だけを残してディナーが終了したのでした。これが「ドキュメント・幼児連れの外食」です。

子どもが生まれてなくなる余裕

子どもが生まれる前、喧嘩をしている夫婦を見ては、「なぜ喧嘩にするんだろう」といつも不思議に思っていました。好きで結婚した相手なのだから、思いやりを持って接すれば、喧嘩などすることなく、仲良くいられるのではないかと考えていたのです。

けれども、それは私にパートナーを思いやる心の余裕があったからでした。息子が加わったことで、わたしには余裕がなくなった。それは仕方のないことだけど、だからといってつらくないわけじゃない。どうにかして余裕を取り戻したいと、その帰り道に思いました。一方の夫は「俺も餃子、食べなきゃよかったなぁ……」と呟いていました。彼もまた、その日のディナーを通して何かを学んだようです。

彼と一緒にいるようになって9年目。すっかり安定した生活でしたが、息子が加わったことで、地盤にぐらぐらと変化が来ています。けれども、そのおかげで、完成品だと思っていたわたしたちも、まだまだ成長していけそうです。

Text/大泉りか

初出:2018.08.18

次回は<言われなきゃ動かない「イクメン」とうまく家事・育児を分担する方法 >です。
よそからは「イクメン」に見えても、実際はやれと言わないと動いてくれない!そんな旦那さんとの家事や育児の分担を、喧嘩せずに気持ちよく行うためには、家事分担表を使うのも大事ですが、「量」だけで捉えないことのほうが大切かもしれません。