苦手だった裸の撮影

 ただ、たまに任されるグラビア撮影のプロデュースは、やりがいがありました。グラビアといっても、相手はタレントやアイドルではなく、店が一押しする風俗嬢。撮影場所は主にラブホテルでした。ランクでいえば、休憩で三千円、泊まりで六千円くらいの提携店。要するに、そこそこの付き合いの彼氏と休憩で入るなら安くていいけれど、初めての相手に口説かれて連れてこられたのがここだと、落胆はしないまでもテンションが上がることはまずない、そんな場末感満載のラブホテルです。

 内装も古臭く狭いから、グラビア撮影にはまったく向いていませんでしたが、それでも、あれこれとモデルやカメラマンと話し合いながら作品を作っていくのは楽しかったことを覚えています。よく使っていた池袋のラブホテルには、ディズニーの壁画がある部屋があり、たまたまそこしか空いていないと、映り込まないように撮るのが大変でした。あの壁画のある部屋は、まだ存在するのでしょうか。

 一方で、営業の手が回らない時には、風俗店に出向いて女の子のプロフィール写真を撮ることもありました。当時はまだ、雑居ビルの中などに実店舗があり、その中の小さく区切られた個室で女の子とプレイすることが出来る“店舗型”と言われる店がたくさんありました。その薄暗い個室で、裸の女性をデジカメで撮影し、プロフィールシートを渡して、身長、体重、スリーサイズや性感帯などの項目を埋めてもらうのです。

 同じ撮影でもこっちの仕事は苦手でした。同い年くらいの女の子が裸でいる写真を、こちらは服を着たままで撮ることが、なんとなく気まずかったからです。狭い空間に、服を着ていない女の子と、着ているわたし。相手は裸に慣れているので、おそらくは何にも思っていないだろうけれど、わたしのほうはなんとも言えない居心地の悪さがありました。

 なぜ居心地の悪さを感じたのか。いま考えるとたぶん、「彼女たちは、お金のために好きでもない男性と身体を重ねなくてはならない自分の立場を、不本意だと感じているに違いない」と、わたしが信じていたからだと思います。それはすなわち、過去、自分がお金のために好きでもない男性と身体を重ねたことを、不本意だと思っていたからでしょう。

 今となれば、世の中には単純に、性的好奇心や博愛、職人としてテクニックを極めたいという前向きな理由で風俗に身を投じる人が多くいることを知っていますが、当時のわたしの狭い視野では見えていませんでした。

――次週へ続く

Text/大泉りか

次回は<送別会で大宮のナンパスポットに連れて行ってくれた金髪の彼女>です。
大泉りかさんが新卒で入社し、半年だけ在籍していた編集プロダクション。送別会は開かれませんでしたが、個人的に誘ってくれたのが、当時ネットアイドルをしていた経理の女性でした。昼間のオフィスではヤンキーにしか見えないのに、送別会で連れて行ってくれた大宮では輝いていた、彼女との一日。