すぐ泣くのに放っておけない30男

 ある日、関根くんは、自分の趣味について楽しそうに語る人たちを見て、自分があまりにも無趣味な「からっぽ」の人間であることに気づかされる。そしてちょっと泣く(!)。

 そう、この王子様はちょっとしたことですぐに泣くのである。リアルな30男がちょっとしたことで泣いたら面倒くさいだけかも知れないが、関根くんの涙には「泣いてる俺アピール」がなく、純粋に美しい(まあ、そもそもイケメンだしな)。
いつもクールで笑顔少なめ、感情の発露がほとんどないくせに、無趣味な自分を思っていきなり泣く。一歩間違えたらメンヘラだ。だけどものすごく素直だ。放っておけない。

 何か趣味を作らねばと思った彼は、おじいさんと孫がやっている手芸店に出入りするようになる。そこは、おじいさんが手品を、孫が編み物などを教えてくれる、ちょっと変わった店なのだが、関根くんは、手品と編み物をものすごい勢いでマスターしつつ、孫娘「サラ」ちゃんへの恋心を募らせてゆくのだった。

「関根さんて今まで/どうやって女の人とつき合ってきたんです?」
「さあ」
「さあって……」
「つき合いたいと云われればつき合うし/別れようと云われれば別れて…/そんな感じですかね」

 これはまだサラちゃんを好きになる前のやりとりだが、これを見てもらえば、主体性ゼロの恋愛しか知らない彼が、やがて自分からサラちゃんを好きになることが、いかに大きな事件であるかがわかるだろう。なんというか、感情を持った人間としてやっとこの世にデビューした感がある。まるで生まれたての赤ちゃん……がんばれ……。

「いい歳してこいつ何にもできねーじゃねえか!」と怒る人もいそうだが、わたしはこういうバランスを欠いた人間が大好きだ。たぶん、関根くんがここまでイケメンじゃなかったとしても、好きになったと思う。
30歳でやっと趣味を持ち、30歳でやっとまともな恋を始める。遅まきながら生きている実感をつかみ取ろうともがく男の、あまりにも不器用な姿を見ていると、萌えて萌えて仕方ない。

 でも、この「萌え」は、「彼女になりたい」とか「母親になりたい」といった気持ちとは違う。敢えて言うなら「わかりたい」みたいな気持ち。関根くんの不器用エピソードを大量に入手して、彼がどういう人間なのかを永遠に考え続けたい(それで、あわよくば、しんどさから救ってあげたい)。専属カウンセラーか、それとも、超おせっかいな親戚のおばさんか。なんなんだこの立ち位置。自分でもよくわからない(困)。