少女マンガに登場するステキな王子様に胸をときめかせていたあの頃ーいつか自分も恋をしたい。そんな風に思いながら、イイ男とは何か、どんなモテテクが効果的なのか、少女マンガを使ってお勉強していたという人も少なくないハズ。
時は流れ大人になっても、少女マンガによって植え付けられた恋愛観や理想の王子様像は、そう簡単に劣化するものではありません。むしろ王子様の亡霊に取り憑かれて、リアルな恋愛がしょぼく思える人もいたり? この連載では、新旧さまざまなマンガを読みながら、少女マンガにおける王子様像について考えていきます。
難攻不落な王子様にハマってはいけない『A子さんの恋人』
大人と呼ばれる年齢になってみて、ひとつわかったことがある。それは、大人の中身が案外、子どもじみているということ。
落ち着きなんて全然ないし、些細なことでいつまでも落ち込むし、下らないことでいまだに笑える。「わたくし立派な大人でございます!」という顔をしている大人のほとんどが、実は図体のでかい子どもに過ぎないのだ。
でも、それが世の常なのかと思うと、なんだか可笑しくなってくる。もっと楽しんでやれ、フザけてやれ、という悪戯心が湧いてくる。大人ぶるのがバカバカしくなってくる。
近藤聡乃・著『A子さんの恋人』は、大人ぶることをはなから放棄しているような、たいへん愉快な人々の織りなす物語である。
登場人物たちのほとんどが美大出身者で構成されており、世の中の常識よりも己の感覚を優先するようなところがあって、「人生楽しいだろうなこの人たち」と思わずにはいられない。
主人公の「A子」は、美大を出たあと、プロのマンガ家として活躍しているアラサー女子。彼女は、恋人である「A太郎」にはっきり別れを告げないままニューヨークに行き、そこでアメリカ人の彼氏「A君」ができたものの、今度はA君からのプロポーズにうまく答えられないまま、ひとまず日本に帰国した。
日本とアメリカ、ふたりの男の間を右往左往するA子は、少女漫画によくあるような典型的なモテ女かと思いきや、実際は、優柔不断な地味女子と言ったほうが近い。大親友のK子でさえ「なんで?/なんであんな女に/男がふたりもいるのに/私にはいなんだろう?」と言っちゃうくらい、モテ感がない女。それがA子である。