夕食を終えた恋人がまさかの…
夕刻前にはホテルにチェックイン。温泉をひと浴びした後、海鮮がメインの晩ご飯タイム。部屋食だったので、日本酒をぐびぐびと飲みつつ、ゆっくり落ち着いて食べられたのはよかったけれど、食事が終わると同時に恋人が畳にごろりと横たわった。おセックスの誘いではなく、食べ過ぎて苦しいと。え。まさかまさか。「寝るの?」と尋ねたところ「頼むから、ちょっとだけ、寝かせてくれない?」とのたまう。
「頼むから寝かせてくれ」と言われて「その頼みは聞けぬ」と言える人がいるのだろうか。拷問でもあるまいし。そうして、あっという間に寝息を立て始めた恋人を、部屋に残してひとり温泉へと向かう道すがら、わたしは心を決めたのでした。「この人とは、もう別れる」と。
恋人は、驚いたことに朝まで目を覚まさなかったけれど、「別れる」と心に決めていたので、もう腹も立ちませんでした。ただただ、一緒にいてもつまらないから早く帰りたいという一心で、翌日は観光もせずにまっすぐ帰途についたのですが、あんな態度をしておいて、彼はどうしてわたしの愛を取り戻せると思ったのか。どこまでわたしがコミットするかの試し行為だったのか、それとも「何もしなくても一緒にいるだけで楽しめるはず」というピュアの愛を信じていたのか、計画の立てられないボンクラか。今でも謎すぎる。
Text/大泉りか
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