私たちは「自己肯定感」「ポジティブ」に振り回されすぎかもしれない/ものすごい愛✕紫原明子対談

AMの人気連載『命に過ぎたる愛なし』に書きおろしを加えた書籍『命に過ぎたる愛なし ~女の子ための恋愛相談』(内外出版社)が発売。AMでは先日、刊行を記念してものすごい愛さんのインタビューを実施。今回は愛さんが大ファンだというエッセイストの紫原明子さんをお呼びして対談を行いました。紫原さんは現在、webマガジン『クロワッサン』で【紫原明子のお悩み相談】を連載中です。
10〜20代女性からの恋愛相談に<“愛情”と“厳しさ”を持って向き合う>ものすごい愛さんと、働く女性や主婦の方からの様々なお悩みに<優しく寄り添って傷を癒す>紫原明子さん。異なる視点で読者のお悩みにヒントを与えるお二人に共通する想いとは――?

意外と多い?保守的な考えの若い女性

外を眺める女性の画像

――お二人はそれぞれの連載で様々なお悩みに向き合っていらっしゃいますが、相談を通じてなにか気づきや発見ってありましたか?

紫原明子(以下、紫原)

私はシングルマザーなので、同じ境遇の方や主婦の方からの相談が多いですが、昨年、私主催のオフラインサロン“もぐら会”を開設してからは20代から話を聞く機会も増えました。みんな本当にたくさん悩んでます。私自身も20代は辛い時間が多かったから、そういうお悩みに向き合っている愛さんは大変だろうなと。

ものすごい愛(以下、愛)

そうですね、やはり10代後半から20代の女性が多く、20代前半は「片思いが辛い」「自信がない」「彼氏がいないのはおかしいですか?」、20代後半は「結婚したいorできない」といった相談が絶えません。
先日書店さんでのイベントで<男運がないのはブスだから?>のご相談者の方にお会いしたのですが、全然ブスじゃなくて…この人の何を見て、ブスって言った奴がいるんだ!?と憤りました。あとは、DV被害に悩んでいる女性から「無事に別れました」って連絡をもらって……それはやっぱり嬉しかったですね。

紫原

それってすごく価値があることですよね。恋愛相談を通じて「自分の尊厳を大事にしようよ」と言ってくれる人は、女の子にとって本当に必要な存在だと思います。今、若い子たちのDV被害が深刻だって言われていますが、愛さんへの相談内容を見ていると、若いのに保守的な考えを持っている女性が多いように感じます。自分をないがしろにして相手に合わせようとしたり、大事にされない自分に価値がないと感じたり。

私は北海道札幌市出身なんですけど、田舎に行けば行くほどそれが顕著に現れているような気がします。地方の友達に聞くと、“女性は家庭に入って男性を立てる”“男性は大黒柱として家族を養う”みたいな保守性がまだ根強いみたいで。「そんなことないんだよ」って言ってくれる人が全くいないわけじゃないけど少ない。上下関係も厳しいから、声を挙げにくいんですよね。

紫原

「逃げ場がないからここで上手くやらなきゃいけない」と保守的な思考に陥りやすいのかも。大きく失敗したって別の場所でやり直せばいいはずなのに、閉鎖的な環境だとその可能性に気が付くことができない。だから今までのやり方を踏襲するしかなくて、男性を立てることがよしとされる状況から脱することが難しかったり。
特に良くないな、と思うのは“男性が上にいるのは当たり前、その下でどう自信を持って生きるか”という歪な自尊心の保ち方が確立されてしまっていて、ある意味そこで充足してしまうという側面があることです。

側から見ると悲しいことですけど、彼女たちにとってはそれが日常ですからね。

紫原

“8割は男性を立てて、残り2割で主張できる女性がカッコイイ”みたいな風潮もありますよね。複雑だなと感じます。

自己肯定感に振り回されなくていい

あと、20〜40代の女性は社会的に結婚・出産をしないといけないという考えががまだまだ根強くて、それができないが故に自信を失っている人も多いように感じます。よく「どうしたら自信を持てますか?」「自己肯定感をあげるために必要なことは?」と聞かれるので「人と比べないことです」って回答すると、今度は「人と比べないためにはどうしたらいいですか?」って返ってくる。もう禅問答みたいになってしまって(笑)。

紫原

客観的なものさしで自分の性格や行動を判断していたら、自己肯定できなくなってしまうのも当然ですよね。と言いつつ、“自己肯定感”という、あるようなないような概念に、わたしたち囚われすぎだよなって思ったりも。

ネガティブ”っていう言葉もそう。「愛さんのようにポジティブ目指します」とよく言われるのですが、別にポジティブでいる必要なんてないんですよ。わたしはポジティブでいる方が楽だからそうしているだけで、物事を深く考えてどうしたら良いかを反芻した上で行動するのが心地良いなら、ネガティブでもなんでも良いと思っています。
わたしなんて今日、「新宿で乗り換えられた!最高に良い女!」って褒めながら都会を歩いたんですが(笑)、そういう些細なことでもいいから自己肯定のハードルを下げて欲しいなって思うんです。みなさんから寄せられる相談文を読むと、「これが悪かったのかも」ということを深く考察していて……自分のダメだったところを振り返りながらひとつずつ書いていく作業は辛いはずなのに。

紫原

ダメなところばかり探さなくていいと思うんです。失敗から学ぼうとしなくていい。失恋したら相手が悪かったと思っておけばいいし、将来や生活の不安はもっと社会のせいにしていい!

「あの時の失敗も何だかんだ自分のためになってたな」くらいの結果論でいいと思うんですよ。

紫原

そうですね。あとは最近、自分の欲望を表出させることに罪悪感を持ってしまう人が多いなって感じるんです。思っていることを口に出したり、実行したり、他人に認めてもらおうとすることに良し悪しはあるかもしれないけれど、そもそも自分が何を望むかは自由。というか、そもそも制御できないこと。“欲望”を持つことそのものは何も悪いことじゃない。連載をやっていてよく感じます。

――おふたりは悩んだり迷ったりしたときに、どうやって乗り越えているんですか?

紫原

私も普段よく悩むけど、ある程度悩んでどうにもならなかったら、一旦諦めてタイミングを待つようにしています。自分だけが変わっても周りの準備が整わないとどうしようもない時期、ただ耐えないといけない時期ってあると思うんです。「変えられないものと変えられるものとを見極められる目を持つ」というのが私の座右の名なんですけど、これまでの経験上、どうにもならないように見える悩みも案外時間とともにどうにかなったりする。それに気づけたことが、年を重ねて良かったことの1つですね。

もともとあまり悩まないタチなんですよね。「まあ、なるようになるでしょ」って感じで、自分の中にストンと答えが降りてきてくれるまで見て見ぬ振りをして放置します。それでもどうしても悩んでしまうときは、「こういう状況なんだけど、どう思う?」って客観的な意見を聞きますね。周りにいる人に絶対の信頼があるので、厳しい意見も「確かにそうだよね」って受け止められる。あと、そもそも悩むのに飽きちゃうんです。

――飽きる?悩むことに、ですか?

そうです(笑)。友達と「失恋した時に愚痴でも泣き言でも1年間は何を言ってもOK」というルールを導入しているんですが、言う側も「1年間は何を言ってもいいんだな」って安心するし、言われる側も「1年で終わるから」って思える。その過程で、「1年経っても同じことで悩んでいることなんてほとんどない」と気づいて、気持ちが楽になりました。

紫原

友達にもいろいろな距離感がありますよね。あと、最近の女性たちはWEB上で色々なグループを持っています。例えば忙しくて集まれない主婦たちはLINEグループとかで「今日こんなことがあった」「お疲れ様!」っていう風にやりとりをしているのですが、他愛ないことを話すだけじゃなくて、弱音を吐きあって、尚且つ建設的な解決策を出し合える場所が女性には必要なんじゃないかなと思います。