鏡を見るとき、つい無意識に顔を作ってしまう。
だけどそれは仕方がないことだ。普段どおりの無気力・無表情の自分を鏡に写してしまったら、明日も頑張って生きていこうっていう希望がなくなる。鏡で自分を見るときくらい、幻影を追いかけて何が悪い!と、開き直っていたものの、あるとき息子から「ママ、鏡見るとき自然にアヒル口やるのやめてよ、気持ち悪い」と言われて顔から火が吹き出た。
それなりのキメ顔で鏡を見ている自覚はあったが、まさかアヒル口をしていようとは……。
齢33歳、2児の母が無意識にアヒル口を実践してしまう痛々しさもさることながら、「アヒル口が可愛い」という、数年前に全盛期を迎えた価値観で私の中の時が止まってしまっている事実にも泣けた。
息子に指摘されなければ、10年経っても20年経っても、鏡の前で無意識にアヒル口を続けていたんだろう……。
美魔女の強い意思と20代の淡々とした生活
ママ友に、そりゃもうすごい美魔女がいる。
彼女は40代、しかもまもなく後半だが、どう見ても20代後半〜30代前半にしか見えない。おまけに、若作りの人によくある痛々しさが一切ないのだ。
初めて彼女と会ったのは8年前、つまり私が25、6というときだった。
晩婚・晩産の傾向が著しい都内では年の近いママ友となかなか出会えなかったので、物珍しさもあってつい「私達、多分同世代だよね?」って感じで話しかけた。
すると思いがけず「私もう40過ぎてるよ〜」と照れ笑いで返され、ウソだっ!と思った。
が、後日彼女の家に遊びに行ったとき、チェストの上に飾ってあった古い写真の中で、ワンレンの髪をなびかせ、ハイレグ水着を着て、ハワイのビーチで微笑む在りし日の彼女の姿を見た。
子供の頃、懐メロ特集で観た工藤静香みたいだった。私と同世代かに思われた彼女、少し前は確かに、バブル期を最前線で楽しんだ人だったのだ。
彼女は雑誌やテレビで見る美魔女よりよっぽど美しく、お洒落で、ごく自然に若々しい。
彼女がメディアに出ればたちまち騒然となるのではと思うも、彼女は頑として表に出ない。試しに進めてみても「うふふ〜」と笑ってなんだかんだで受け流されてしまうのである。
結局のところ、この決して美魔女コンテストに出ないマインドそのものが、余計に彼女を究極の美魔女たらしめているようにも感じる。
というのも、美魔女コンテストに出る人というのは、理想とする自分を手に入れるための強い意志を持ってるし、それによって人に評価されたい、認められたいという大きな欲を持っている。つまり、野心の塊である。
ところが、実際に美魔女がキャッチアップしたいイケてる世代、20代の子たちを見てみると、食や服に執着せず、淡々と生活してたらそこその美がついてきましたといった雰囲気で、野心の影がとことん薄いのだ。
言ってしまえば、美魔女コンテストにエントリーする美魔女達が、血のにじむような努力をして名声や承認を欲する、そのスタイルそのものが、残念ながら旧世代的なものとなってしまっているように見える。
だからこそ、どんなに綺麗で若々しくても、「そういうのはちょっとね〜」って言いながら、日々の地道なケアで手にした美を、自分と旦那さんの満足のためだけのものに留めているママ友は、単に外見のみならず、そんな時代の無欲な空気、外見に見合ったマインドすら自分のものにしてしまっているように見えるのだ。
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