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  • 2017.10.04

女としての価値か社会としての価値か?引き裂かれる私たち/鈴木涼美インタビュー第二回

特集「愛とお金」第二回、鈴木涼美さんのインタビューです。夜と昼、二つの経歴を持つ鈴木涼美さんが世の中の女性の難題に挑みます。「社会としての価値に重きを置くのか、女性としての価値に重きをおくのか」「娘が『夜の世界にいきたい』と言ったらどうする?」 すべての女性に刺さる回答は必見です!

 今回は特集『愛をつなぐお金』として、元セクシー女優、元新聞記者という異色の経歴を持ち、『身体を売ったらサヨウナラ』『愛と子宮に花束を』などの著書がある鈴木涼美さんへのインタビュー第二回です。
第一回「お金で愛は買えるのか?」と夜の世界について、から話が膨らみ、鈴木さんが色々な経歴を持つ理由、女性の生き方の複雑さについて伺っています。

「私の魂はここがすべてじゃないし」
と思った方が楽

鈴木涼美さん紹介画像

――鈴木さんの著作を読んでいると、夜と昼の顔を使い分けることをすごく楽しんでるように感じました。

そうですね、「これはいけないような気がするけど理由はわからない」ってことは、とりあえず自分でやってみたくなるタイプだっていうのもあるんですけど。AV女優になることって法律で止められてもないけど、なんでダメだと言われるか説明できないから、実践してみたくて。

あと、いろんな世界に自分の置き場を作っておくと、とても生きやすいんですよね。会社で否定されても「私の本当の顔はあっちの夜の世界だし」と思っていられるから。

――たしかに、ひとつの世界だけだと評価されなかったとき、つらいです。

人間って、自分に価値を見出さないと生きていくのがなかなか難しいじゃないですか。
東大でもキャバクラでも、私より優秀な人はごまんといるけど、両方を平行する人はいない。私の場合はですけど、そういう、いくつかの相容れない世界を知ってることに自分の価値をひとつ置こうと思ったんです。

――でも、複数の世界を生きるって、どれが本当の自分がわからなくなりそうで、こわくはないですか?

どれが本当の自分かわからないくらいのほうが楽です。

――楽!?

自分が新聞記者だと思ったら、特ダネを他社に取られたらアイデンティティの存在が揺さぶられますが「でも私は新聞記者もやってるけど夜はキャバ嬢やってるし」と思ってれば、特ダネを抜かれても大して痛みを感じないというか。私の魂はここにすべてあるわけではないし、と思ったほうが楽。

この世界一本でやっていこうと思ってる人にとっては、私が横にいることは不快かもしれない。でも、自分の幸福は自分で決めていかなきゃいけないわけだから。ここにいる私だけが私じゃないって思ったほうが気楽なら、それでいいと思います。

「女性としての価値」か「社会としての価値」か

鈴木涼美さんがインタビューを受けている画像

――でも、夜の世界の幸せと、昼の世界の幸せが真逆、なんてことはないんですか?

そうです、だから引き裂かれています。社会としての価値に重きを置くのか、女性としての価値に重きをおくのか。あるいは、社会での理性的な居場所を獲得していくのか、もしくは「この人にとって一番になれればいい」って感情的で個人的な居場所を獲得してくのか。

仕事も全力、恋も全力、綺麗でもありたい、みたいなことはきれいごとに見えるんです。パワーサラダ食べて、広告会社に勤めて、気合いを入れるミーティングにはジミーチュウ…とか。
正直、東大入るくらい死ぬ気で勉強してると化粧する暇とかないし、新聞記者だった頃も、選挙や震災のときって何日も会社泊してるからファンデーションなんて気持ち悪くてぬってられないし。女性としての価値を少し軽んじるというか、捨てないとそっちに集中できないんですよ。できる人もどっかにいるかもしれないけど、インスタグラマーみたいな生活を送るには、親を奴隷のように使ったりとか、普通は多大な犠牲が必要ですよね。

――両立は難しいですよね。

女性としての価値を選んで主婦になったけど、社会人としての価値がすごく下がったような気がして悩む子もいる。反対に、猛勉強して医者になったけど、自分より全然勉強してなかった女性が整形とかしていい男と結婚して「自分は間違ってたのか」なんて悩む子もいる。それって、どっちをとってもすごくつらいじゃないですか。

だから、どうしたら自分で選んだ価値のほうが尊いって思えるかっていうのは、私の中ですごく大きいテーマですね。

――鈴木さんはどちらかを選びましたか?

私は両方欲しかったけど選べずに、記者もAV女優もやめて、どっちも放棄していまの場所にいます。でも別にそれは私が答えを見つけたとかってことじゃなくて。終わりなき悩みを最後まで抱えてましたね。日経にいたときは、髪もボサボサ、眉毛も繋がってました。22歳で慶応生、キャバ嬢の頃より確実にブサイクで。でも、どちらのほうが価値があるのか、計りづらい。

――難しいです。

でも、割と早めにどちらか選ばないと手に入らないじゃないですか。大学に入学しないと医者やバリキャリにはなれないし、ずっと美容に気を使わないと美しい大人の女性にはなれない。だから、私たちは早い段階で選択を迫られてますよね。

――確かに。20代、いや、大学入学の頃から選択しないといけないんですね。

そうそう。大学選びだって、その二択につながりますよね。勉強ができるなら東大にいくかもしれない。けど、女性としての価値を重視したいなら、本当は女子大や短大にいって早めに社会に出たほうが、ちやほやされるかもしれない。
男性なら、亜細亜大よりも慶應が明確にモテるってわかるんですけどね。
私だって18のときにこんなこと言語化できるほどわかってませんでした。なんとなく両方とりたいなって思ったし。
でも、それが現代の女性が抱えているすごく複雑な選択肢の問題だって気づいたのは、会社に入ってからですね。働きだすと難しいことに気づく。

娘が「夜の世界にいきたい」と言ったら

鈴木涼美さんがインタビューを受けている画像

――最後に。鈴木さんは夜の世界に飛び込むことで、色々な体験ができたとお話していましたが、もし娘さんが「夜の世界にいきたい」と言ったらどうしますか?

私がおぼろげにわかった夜の世界の不健全さや、心が疲れる仕組みは話すと思います。でも、そんな話が夜の世界が見せている魅力に勝てるとは思えない。私は物書きでもあり、元夜の嬢でもあるから、語る言葉は正直たくさんもっているけど、夜の世界を諦めるよう彼女を説得できるかは自信はないですね。

――意外でした。

もちろん、説得できる言葉を獲得したいと思って、日々考えてはいます。でも、当時自分がキャバクラにいて楽しいときに、この言葉に出会っていたらそこから離れてたかもしれないっていうほど強い言葉は私もまだ持ってないから。結局は母と同じように、日々娘の身に起こる色々なこととその都度向き合い葛藤していくしかないんだろうなっていう、漠然とした諦めもありますね。

――諦めというとどんなことでしょう?

現実を凌駕するような言葉を生み出したいけど、目の前にあるものすごい現実を超える言葉ってないような気がするんです。

新聞記者だった頃に、小泉純一郎さんが靖国参拝をしたんです。威風堂々と靖国に降り立った姿をテレビ中継で見た国民の多くが、支持派に意見を変えました。あの出来事を報道したのが新聞だけだったら、そのまま不支持派の方が多かったと思う。

靖国参拝とか、震災とか、現実の前に言葉の無力さを感じることはあります。でも、その無力感と戦っていきたいというか、言葉は尽くしたいと思う。それは私の書く原動力でもあるし。果たして、それが可能なのかはわからないけれど、彼女が見ている現実を超えて、彼女につき刺さるような言葉を得たいですね。

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