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  • 2017.09.28

「お金で愛は買えるのか?」と夜の世界について/鈴木涼美インタビュー

誰もが一度が考える「お金で愛は買えるのか」問題。愛とお金の関係性から私たちは何を満たしているのでしょうか。元セクシー女優、元新聞記者という異色の経歴を持つ鈴木涼美さんにお金と切り離せない夜の世界や女性について伺いました。

「お金で愛は買えるのか?」

 ヒモの男性を養っていたり、ホストにハマるホス狂い女子のように、男性にお金を貢ぐ女子がいる一方で、男性から金銭的援助を引き出すパパ活女子・港区女子がSNSを中心に話題になっています。
愛をお金で買えたら便利なのに。でも人は、お金と交換した愛が“本物なのか”と疑問を抱きます。私たちは、お金を通じて何を満たしているのか? という疑問から本特集『愛をつなぐお金』がスタートしました。
元セクシー女優、元新聞記者という異色の経歴を持ち、『身体を売ったらサヨウナラ』『愛と子宮に花束を』などの著書がある鈴木涼美さんにお金と愛、またそれらと切り離せない夜と昼の世界と女性の関係についてお話を伺いました。

鈴木涼美さん紹介画像

使う金額は自分の価値の証明

――今回の特集テーマは「お金で愛は買えるのか」です。
夜の世界と「お金で愛を買う」ということはどうしても近い印象があるのですが、鈴木涼美さんが夜の世界に入ったきっかけってなんですか?

私は「ブルセラ」や「援助交際」が流行った世代なので、そういう世界が身近にあったんです。初めてブルセラショップに行ったのは高校生の頃。ブルセラショップといってもギャルのたまり場みたいになってて。「男性に対して資本主義的に売ろう」なんて思っていたわけではなく、当時一緒に渋谷で遊んでいた仲間が通ってたからついていっただけですね。店内にはプレステとかも置いてあって、そこで女の子とわいわい遊んでるのが楽しかったんです。

――割とカジュアルな場所だったんですね。

一応、お客さんが来たらパンツも売るんですよ。マジックミラー越しに「5番の子のパンツとブラジャー」とか言われて、注文が入る仕組み。
そうすると、自分がどれくらいモテるのか、すごくわかりやすくお金で数値化されるんです。現実世界では中々ないですよね。

――面白いですね。

鈴木涼美さんがインタビューを受けている画像

でも、女の子が集まると、売れる売れない以外にも、実はいろんな尺度のヒエラルキーができますよね。例えば、「この子は下着は売れないけど、eggの表紙に出てて一番ギャルい」とか「ダサめで門限が19時だけど、おじさんウケがよくて下着は売れる」とか(笑)。
自分は何においてなら勝負できるってことがわかるから、女性としての価値が多様だっていうのが目に見える面白い場所でしたね。

で、ブルセラショップに通わなくなってからも、やっぱり楽しかったし、そういう世界に身を置きたいなと思って、大学入学後にキャバクラで働き始めました。

――ホストクラブにも行かれていたとお聞きしました。

キャバクラのアフターで行ったのが最初です。だから最初は自分でお金を払ってませんでした。それに、女子高生の頃から「男の人に対してお金を払う」という概念がなくて。その場のパーティーっていう感じで、自分のお金で行くときも、最低料金の2万円で全然楽しい。でも、200万円とか使う子もいますよね。

――なぜ彼女たちはその金額を使うのでしょう?

以前は、よっぽどさみしいからかなと思っていたんです。けど、彼女たちの気持ちを最近聞いてみるようになって、そうじゃないってわかってきました。

ホストに使う金額が大きいってことは、自分が稼ぐ金額が大きいってことですよね。それって、「私は可愛いから、キャバクラと風俗どっちでも働けば300万稼げて誰よりも高いボトルがいれられる」っていう、自分の女性的な魅力が他の子よりも高いってことの証明なんです。

――ホストのために使ってるわけじゃないんですね。

そうそう。風俗みたいに個室じゃなくて平場で、しかも、その日一番お金使ったお客さんには、ラストソングっていうホストが彼女の横で歌ってくれるシステムがあるんです。「自分は他よりすごい人なんだ」っていう、ビッグな気分になれる仕組みがあって。そっちの方がたぶん動機付けとしては強い。

そもそも、貢ぐことが好きな女性は一定数いるけど、数百万も使うほど貢ぎたい欲が強い女性ってあんまりいないと思うんです。だって、ヒモに月10万円お小遣いを渡す女性はいても、300万円渡す人はほとんどいないですよね。でも、使うお金が自分の価値の証明になるホストクラブって場所なら渡す。だから貢ぐこと自体に幸せを感じられる人って少ないと思いますね。

それに、みんな担当(※贔屓のホスト)が好きだと思い込んでいても、彼がやめたりすると、あっけなく他の担当をみつけてまたお金を使う。対象が入れ替えられるって、別に愛のなせる技じゃないですよね。

「かけがえのない存在」に簡単になる

鈴木涼美さんがインタビューを受けている画像

――「自分の価値の証明」以外にも、お金を使う理由ってあるんでしょうか。

ホストに必要とされるので、「誰かにとってかけがえのない存在になる」っていう人生の縮図みたいな目的も達成されます。女性としては「お金じゃない他の面でお前じゃなきだめだ」とか思われるのが本望なんですが、そう思われる簡単な方法論はない。だから、すごく簡単な方法として、お金を使って「かけがえのない存在」になることができます。

――やっぱり「自分のため」なんですね。

あと、お金を店にツケ払いとかまでして使うってスリルが中毒化してるせいもあると思います。

でも、根幹にあるのはやっぱり「自分の価値の証明」じゃないかな。
夜の仕事って完全能力給。会社員なら仕事する人もしない人も同じ給料ですよね。でも、キャバクラならすごく美しい人や営業力が高い人は時給が上がる。風俗なんてもっと露骨で、月収ゼロの人もいれば100万稼ぐ人もいる。
夜の仕事やホストクラブは「自分の価値の証明」の場として機能してるなって思います。

――ホストのためというより、自分の価値を証明し続けているんですね。どこかで辛くなるんでしょうか?

みんな精神を病みながら、シャンパン飲んで頑張ってる感じです。私自身はそれがいいとは言わないけど、その飢餓感みたいなものがここまで露骨に出るのは面白いなと感じます。

――病まずに楽しいところだけとって遊ぶことはできるんでしょうか??

働くことに病んでるのか、遊ぶことに病んでるのかはよくわかりませんが、どっちにしろ自分の価値を分かりやすくお金に還元していく行為って、精神的な負担になることが結構あるんじゃないかなと。
風俗嬢が「私はこの人に5万円もらってるから言うことを聞かなきゃいけない」と思うのも病むし、ホストに「この人は私が5万円払ったから一緒にいてくれるんだ」って思うのも病むし。お金に変えられない価値とか、お金とか関係なく好きとか、そういうことに重きが置かれてきたのは、長年の人間の知恵ですよね。

――病みさえしなければ、そういう世界を楽しめそうとつい思ってしまいます…。

たしかに、夜の世界は刺激的で刹那的に幸せでキラキラしてます。それに比べ、昼の世界は退屈ですよね。私だってAV女優もキャバクラもやめて、明日から会社員になるんだって思うと、なんか気分が暗い。笑いが絶えない日常ではなく、満員電車に揺られ大手町に通い、ハゲとおじさんと机を並べたからって一万円のチップをくれるわけでもない世界に私は飛び込んでいくんだ、みたいな(笑)。

――辞めどきが難しそうですね。

そうですね。自分と同い年のAV女優の子や、横浜のキャバクラで一緒だった子もまだ続けています。限界を感じることもあるけど、来月から月収18万で不動産の経理とかやるってなると、踏ん切りがつかないでしょう。「まだ稼いでるから大丈夫」って。

まあ、別に若い時しかやっちゃいけない仕事でもないし、熟女キャバクラもあれば、AVなんて最近30代40代の需要があるので。昼の世界にいると年齢重ねて性的に見られなくなるけど、熟女キャバクラでは性的に見られることが幸福って人も聞いたことがあるので、それぞれがどこに価値を見出すかですね。

なんでこんな楽しい世界から
抜け出さなきゃいけないんだろう?

鈴木涼美さんがインタビューを受けている画像

――鈴木さんが夜の世界で得たものってなんですか?

得たものってあんまりなくて。確かにお金は得ました。日経に勤めた5年半の収入よりも、夜の仕事で稼いだ学生時代の収入のほうが確かに多かった。でも、日経辞めたときにお金は残ってたのに、夜の仕事を辞めたときにお金は一切残ってなかったんですよね。やっぱり、水もののお金ってすぐなくなりますよ。今じゃもうボロボロで使えないシャネルのバッグに化けたり、毎夜の飲み会やタクシー代に消えたり。
けど、ああいう世界があるって知れたこと、知っていて今はそっちではない世界にいるってことが、自分の中で一つの自信みたいなものにはなっています。

あとは単純にキャバ嬢とかAV嬢だっていう経歴も一応、手に入れたものですね(笑)。

――お金じゃなく、体験と経歴なんですね。

体を売ってお金を儲けるって、女性からするとすごく安易だけど基本的なことですよね。シンプルだし、自分の魅力もはかれる。でも、それで毎日おもしろおかしく生きていけはしないような気もずっとしてて。いつかは出て行かなきゃなって思ったんですよ。

だけど、その根拠はよくわからない。こんなに楽しいし、こんなにお金にもなるし、こんなにストレスのない生活を、なぜやめなければいけないのかってずっと思ってました。
その答えを得たことも、手に入れたもののひとつですかね。

――答えですか。

昔の学者が「援助交際は魂に悪い」と言ったことがあるんですが。やっぱり、そういう世界にいると、いろんな種類の嘘をつかなきゃいけないんです。たとえばAV女優だったら、まず「AV女優をやってない」って嘘をつくし、撮影の日、親には「原宿へ買い物に行く」と嘘をつく。キャバ嬢だったら、お客さん相手に商売上の嘘をつく。もちろん、日経新聞時代も、寝坊したのに打ち合わせという位の嘘はついてました。

でも、すごく根本的なところの嘘をつくこととは違いますよね。「このことも言えない、あのことも言えない、だからいま私が感じてることも言えない」と心が疲れて痛んでくる。

――本当のことが言えなくなるんですね。

嘘って、人間関係にも深く関わりますし。
大学時代、研究室の仲の良い子にAVをやってることを言ってなかったんです。でも、10年後に週刊誌を通してバレて、「あのとき、じつはAV女優だったのに嘘ついてたんだ」と10年越しに私信用を失う、っていう(笑)。

ホストとか夜の仕事って、実は結婚していることはお客さんにバレてはいけないとか、嘘が商売の一部に組み込まれているところがあるので、それはすごく心が削れることだなと思ってました。

後編に続く)

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