なんでこんな楽しい世界から
抜け出さなきゃいけないんだろう?

鈴木涼美さんがインタビューを受けている画像

――鈴木さんが夜の世界で得たものってなんですか?

得たものってあんまりなくて。確かにお金は得ました。日経に勤めた5年半の収入よりも、夜の仕事で稼いだ学生時代の収入のほうが確かに多かった。でも、日経辞めたときにお金は残ってたのに、夜の仕事を辞めたときにお金は一切残ってなかったんですよね。やっぱり、水もののお金ってすぐなくなりますよ。今じゃもうボロボロで使えないシャネルのバッグに化けたり、毎夜の飲み会やタクシー代に消えたり。
けど、ああいう世界があるって知れたこと、知っていて今はそっちではない世界にいるってことが、自分の中で一つの自信みたいなものにはなっています。

あとは単純にキャバ嬢とかAV嬢だっていう経歴も一応、手に入れたものですね(笑)。

――お金じゃなく、体験と経歴なんですね。

体を売ってお金を儲けるって、女性からするとすごく安易だけど基本的なことですよね。シンプルだし、自分の魅力もはかれる。でも、それで毎日おもしろおかしく生きていけはしないような気もずっとしてて。いつかは出て行かなきゃなって思ったんですよ。

だけど、その根拠はよくわからない。こんなに楽しいし、こんなにお金にもなるし、こんなにストレスのない生活を、なぜやめなければいけないのかってずっと思ってました。
その答えを得たことも、手に入れたもののひとつですかね。

――答えですか。

昔の学者が「援助交際は魂に悪い」と言ったことがあるんですが。やっぱり、そういう世界にいると、いろんな種類の嘘をつかなきゃいけないんです。たとえばAV女優だったら、まず「AV女優をやってない」って嘘をつくし、撮影の日、親には「原宿へ買い物に行く」と嘘をつく。キャバ嬢だったら、お客さん相手に商売上の嘘をつく。もちろん、日経新聞時代も、寝坊したのに打ち合わせという位の嘘はついてました。

でも、すごく根本的なところの嘘をつくこととは違いますよね。「このことも言えない、あのことも言えない、だからいま私が感じてることも言えない」と心が疲れて痛んでくる。

――本当のことが言えなくなるんですね。

嘘って、人間関係にも深く関わりますし。
大学時代、研究室の仲の良い子にAVをやってることを言ってなかったんです。でも、10年後に週刊誌を通してバレて、「あのとき、じつはAV女優だったのに嘘ついてたんだ」と10年越しに私信用を失う、っていう(笑)。

ホストとか夜の仕事って、実は結婚していることはお客さんにバレてはいけないとか、嘘が商売の一部に組み込まれているところがあるので、それはすごく心が削れることだなと思ってました。

後編に続く)

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