「女性としての価値」か「社会としての価値」か

鈴木涼美さんがインタビューを受けている画像

――でも、夜の世界の幸せと、昼の世界の幸せが真逆、なんてことはないんですか?

そうです、だから引き裂かれています。社会としての価値に重きを置くのか、女性としての価値に重きをおくのか。あるいは、社会での理性的な居場所を獲得していくのか、もしくは「この人にとって一番になれればいい」って感情的で個人的な居場所を獲得してくのか。

仕事も全力、恋も全力、綺麗でもありたい、みたいなことはきれいごとに見えるんです。パワーサラダ食べて、広告会社に勤めて、気合いを入れるミーティングにはジミーチュウ…とか。
正直、東大入るくらい死ぬ気で勉強してると化粧する暇とかないし、新聞記者だった頃も、選挙や震災のときって何日も会社泊してるからファンデーションなんて気持ち悪くてぬってられないし。女性としての価値を少し軽んじるというか、捨てないとそっちに集中できないんですよ。できる人もどっかにいるかもしれないけど、インスタグラマーみたいな生活を送るには、親を奴隷のように使ったりとか、普通は多大な犠牲が必要ですよね。

――両立は難しいですよね。

女性としての価値を選んで主婦になったけど、社会人としての価値がすごく下がったような気がして悩む子もいる。反対に、猛勉強して医者になったけど、自分より全然勉強してなかった女性が整形とかしていい男と結婚して「自分は間違ってたのか」なんて悩む子もいる。それって、どっちをとってもすごくつらいじゃないですか。

だから、どうしたら自分で選んだ価値のほうが尊いって思えるかっていうのは、私の中ですごく大きいテーマですね。

――鈴木さんはどちらかを選びましたか?

私は両方欲しかったけど選べずに、記者もAV女優もやめて、どっちも放棄していまの場所にいます。でも別にそれは私が答えを見つけたとかってことじゃなくて。終わりなき悩みを最後まで抱えてましたね。日経にいたときは、髪もボサボサ、眉毛も繋がってました。22歳で慶応生、キャバ嬢の頃より確実にブサイクで。でも、どちらのほうが価値があるのか、計りづらい。

――難しいです。

でも、割と早めにどちらか選ばないと手に入らないじゃないですか。大学に入学しないと医者やバリキャリにはなれないし、ずっと美容に気を使わないと美しい大人の女性にはなれない。だから、私たちは早い段階で選択を迫られてますよね。

――確かに。20代、いや、大学入学の頃から選択しないといけないんですね。

そうそう。大学選びだって、その二択につながりますよね。勉強ができるなら東大にいくかもしれない。けど、女性としての価値を重視したいなら、本当は女子大や短大にいって早めに社会に出たほうが、ちやほやされるかもしれない。
男性なら、亜細亜大よりも慶應が明確にモテるってわかるんですけどね。
私だって18のときにこんなこと言語化できるほどわかってませんでした。なんとなく両方とりたいなって思ったし。
でも、それが現代の女性が抱えているすごく複雑な選択肢の問題だって気づいたのは、会社に入ってからですね。働きだすと難しいことに気づく。