なぜ思春期に人は悲劇のヒロイン化するのか?桜井亜美の激しくも繊細な世界をもう一度!

2000年前後に中高生だった女子たちの心を強く打った作家、桜井亜美。大人になった今、処女作『イノセントワールド』をある種の「黒歴史」として読み返すと、当時とは違った発見があるかもしれません。

チェコ好き 恋愛黒歴史 桜井亜美 イノセントワールド
©Alyssa L. Miller

 中学生から高校生くらいの間、彼氏がいたりホニャララの経験をすでに済ませていたりした性的に早熟な女の子は、それだけで人としての位が高く、みんなに「すげえ」って思われていた気がします。
一方、当時の私はというと、性的な早熟さは欠片も獲得できなかったので、教室の片隅で大人しく「寺山修司っぽい雰囲気にしたい……」などとボヤキながらいそいそと官能小説を執筆していました(私の公式黒歴史です)。

 そんな私の話はひとまず置いておいて、今回話題にしたいのは、1996年に『イノセントワールド』という作品で鮮烈なデビューを飾った作家、桜井亜美です。

 作者と同じ「アミ」という名の『イノセントワールド』の主人公には、知的障害者の兄・タクヤがいます。
アミは実の兄であるタクヤと性的な関係を築く一方で、まるで親や学校に復讐するかのように売春を重ね、自らの体を傷付けていってしまいます。
当時──つまり2000年前後に中高生だった女子たちのなかには、この桜井亜美の描く激しくも繊細な世界に心を打たれた人や、登場人物の性的な早熟さに憧れた人もいたのではないでしょうか。

 だけど正直にいうと、私はこの触れたら壊れてしまいそうな世界にはなかなか馴染めず、当時から一定の距離を保ちながら読んでいました。
しかしそんな自分にとっても、桜井亜美の小説は、今でも不思議と鮮烈に記憶に残っているのです。

 桜井亜美の描き出す世界観に、共感していた人もいれば、私と同じように少々の反発を覚えていた人もいたでしょう。
今回は、「黒歴史」というキーワードをもとに、桜井亜美の世界を大人になった今の立場から読み解いていきます。