二重にイタい『イノセントワールド』

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前述したように、『イノセントワールド』のアミは、知的障害者の兄・タクヤと性的な関係を結んでいます。
また他の作品だと、『believe 光の輝き』の主人公・サリナは、祖父と母の間に近親相姦の子として生まれています。
桜井亜美の小説ではしばしばこのように、「原罪」とでもいうべき反社会的な性質を抱えた人物が登場するのです。

なぜ桜井亜美の小説の登場人物たちは、こうした特殊な性質である「原罪」を抱えていなければならなかったのでしょうか。
それは、周囲と自分の間に、決定的な境界線を引くためだったのではないかと、私は思います。
周囲に上手く馴染めない自分、まわりと比べて異質な存在である自分。
それは不甲斐なく、しかし同時に誇りでもあります。
多かれ少なかれ、思春期にだれもが経験する孤独です。

『イノセントワールド』や『believe 光の輝き』の主人公には、この思春期の女子たちの孤独が、見事に反映されています。
周囲に馴染めない苛立ちと、馴染みたくないというプライド。
相反するように見えて両立するこの感情は行き過ぎると、自分を悲劇のヒロイン化してしまい、必要以上に傷付けていってしまいます。

だからなんというか、大人の立場から読む『イノセントワールド』は、二重の意味でイタいのです。
1つは、黒歴史的な、自分を悲劇のヒロイン化することに対して思う字義通りの「イタイタしさ」。
もう1つは、それをせずにはいられなかったという思春期独特の心の痛さ、というか「危なっかしさ」です。