長い人生、どうやって楽しめばいいのか

他にも『男どき、女どき』 には、銀座でホステスをしていた女性が子育てを終えてもう一度銀座の街を訪れる『再会』、エッセイでは一人暮らしの楽しみと注意点を書いた『独りを愉しむ』、向田邦子流の香水の付け方を書いた『伯爵のお気に入り』など、さまざまな文章が入っている。新しい香水を試すとき、向田邦子は耳たぶに一滴つけて、飼っている猫の反応を見たそうだ。器に凝り料理を愛した彼女の、最期まで独身だった慎み深い生活を読んでいると、本当にセンスのいい人だったのだなあと恐れ入る。

結婚しても独身でもいいのだけど、大学生で婚活を始めて無事に結婚にたどり着けば、後は安泰……というわけにはなかなかいかない。人生の不幸も幸福も、不条理も秘密も、すべて描かれている向田邦子の小説はじんわりと味わい深く、この先にもまだまだずっと続く生活のことを考えさせてくれる。

そういうわけで、私は『男どき、女どき』を読むと、長い人生をどうやって楽しめばいいのか、少し指針のようなものを持てる気がするのだ。1人でも2人でも、あるいはそれ以上の人数でも、味わい方はいろいろある。

とりあえず、私は海外旅行にばかり関心が高くて日常生活がおざなりなので、今年はお気に入りの器などを揃えて、食卓をきちんと彩ってみようかと画策している。