もしも世界にマーチとジューンがいたら

もしも、もう1人の自分を乗せた飛行機が成田空港にでも到着してしまったら、私はどうするだろうか。自分とは気が合うはずだし、考え方も思想も似ている(というか、同じ)はずなので、一緒に暮らしてみたらけっこう楽しいかもしれないなどと考える。養子縁組でもして法的にも家族になれたら、独身者としての唯一の不安「自分に万が一のことが起きたら……」もクリアである。しかし、家族やパートナーがいる人たちはそうもいかない。『異常 アノマリー』の登場人物たちも、マーチに彼氏を譲り、ジューンが身を引くなど、辛い道を歩むケースがしばしばある。

誰もが「あのときああしていたら/いなかったらどうなっていただろうなあ」と考えたことがあるだろう。でも、「あのときあの選択をしていなかったら今の自分は不幸になっていただろう」とか、「あのときあの選択をしていたら今の自分はもっと幸せだったに違いない」などと、選択に正解と不正解があるような考え方は個人的にあまり好みではない。きっとどの世界線の私も同じように不幸だし、どの世界線のあなたも同じように幸福である。なぜならどれも私だし、あなただからだ。彼氏を譲ってもらったほうが幸せとは限らないし、身を引いたほうが不幸になるという確証も、実はどこにもない。

『異常 アノマリー』を読んで、私はなんだかそんなことを考えた。最後にこれまた衝撃のオチがつくのだけど、さすがにそれは黙っておこう。

Text/チェコ好き(和田真里奈)