若い頃の「結婚願望がない」はアテにならん。大切なことは迷わないことじゃない

突然だけどあなたの友人知人の中で、年齢がいちばん若い人は誰だろうか。知り合いに若い人がいればいるほどエライというわけではまったくないけれど、現在36歳の私の場合で言うと、九州に住んでいる20歳の学生さんが、もっとも若い友人知人ということになる。16歳年下の、しかも九州に住んでいる学生と首都圏在住のアラフォーの私がどうやって知り合ったかというと、推しカプの同人活動である。「推しが同じ」というだけで、住んでいる場所も年齢も職業も超えてカフェでコーヒーを飲みながら3時間くらい語り合えるのだから、つくづくオタクってすごいと思う。ちなみに同ジャンルには、孫がいるアラ還女性、韓国人、台湾人、中国人などもいる。国籍も属性も超えてただ性癖だけが同じだけで繋がっている仲間というのは考えれば考えるほど奇妙だけど、普段の生活圏では知り合えない人と親しくなれることも、私が同人活動にハマっている理由の1つだ。

しかしいくら推しが同じとはいえ、相手も私も、普段は会社員なり学生なりをやっている一般人である。カフェで20歳の女性に「私、結婚願望がないんですけど、結婚なんてしなくていいですよね?」と聞かれ話がプライベートなことに及んだときは、何と答えたらいいのかけっこう迷ってしまった。たしか私はそのとき、「若いときは結婚願望がない人も珍しくないが、だいたいは33歳になる頃には結婚していく。あなたもそうだと思う」みたいな、微妙に質問の答えになっていないことを言ったんだった気がする。彼女は腑に落ちない顔をしていたが(それはそう)、若いときの、しかも20代前半の「結婚願望がない」は、自分のも他人のもあまりアテにならん、ということが少しでも伝わっていればいいかなあと思う。

「お金なんてなくていい」と昔は思っていた

最近、ヘンリー・D・ソローの『孤独は贅沢 ひとりの時間を愉しむ極意』を読んだ。アメリカ出身のソローは、あるとき湖のほとりにある小さな小屋で、ベッドと机だけを持ち込んで2年間たったひとりで自給自足の生活を送る。日本ではミニマリストのほか、アウトドアが趣味の人にソローのファンが多いらしい。私はというと、自分自身はわりとミニマリスト傾向にあるが、同族嫌悪というか、考えが近すぎて食傷気味になりそうなので、これまでソローの著作は避けてきたというのが正直なところだ。本書は『ウォールデン 森の生活』など、ソローの著作からいいところをくり抜いた名言集のような本である。

結論から言うと、20代半ば頃に出会っていたらもっと感銘を受けていただろうな……というのが私の本書への素直な感想なのだが、それはそれで、変わってしまった自分、老いた自分を実感して少し切ない気持ちになる。お金を必要としない生活は美しい。大量生産、大量消費を良しとしないで自給自足をする生活はSDGs的にもなんだか好ましく思えるし、お金を使わなければ働かなくて済むんだぜ!という考え方は現代社会への抵抗のようだ。でも、若い頃は固い寝袋で寝ても翌日の元気回復度は100%だったけど、年齢を重ねると寝袋じゃ腰が痛くなってしまうし、もっと言えば翌日のパフォーマンスを最大限にするためにお高めのマットレスだって欲しくなってしまうもの。お金なんてなくていい、だから働かなくてもいいと私も20代半ばの頃は考えていたが、そのままの考えで30代半ばになれたかというと、なれなかったなー、と本書を読んでやっぱり少しノスタルジックな気持ちになってしまった。