他者の目なんて気にする必要ないけれど、他者の目を通すとちょっとだけ新鮮。ミランダ・ジュライ『あなたを選んでくれるもの』

他者の目を通すと、魅力的に見えてくる

他人の目から見た自分 Kristijan Arsov

なかなか思うように外出できない現在、私がハマっているものといえば、「インテリア」であるーーという話を、前回した。とはいえもちろん、おしゃれな部屋を作るコツやノウハウを語ることは私にはできない。ただ、ひとつだけわかったことは、自分の部屋が今おしゃれなのかダサイのか、ダサイならどこがどうダサイのか……を把握する手段のひとつとしての、「写真を撮る」ことの有効さである。写真を撮るときのカメラは、他者の目の働きをするのだ。自分ではイイじゃんと思っていたものも他者の目を通すとイマイチだったり、反対に、自分ではイマイチだと思っていたものも他者の目を通すと捨てたもんじゃなかったり。とはいえこれも、撮りすぎ・見すぎになると結局わけがわからなくなってくるんだけど。

基本的に「生き方」とか「人生」において、他者の目は気にしないほうがいいし、私も各所で何度もそう書いてきた。しかし例外として、他者の目を通すことによってはじめて、自分の人生がイキイキしたり、そう捨てたもんじゃない気がしてくる、なんてケースもないことはない。今回はそんな例外的なケースである、ミランダ・ジュライの『あなたを選んでくれたもの』を紹介させてもらいたい。

行き詰まったら、徹底的に逃げてみるのもひとつの手

著者のミランダ・ジュライは、『君とボクの虹色の世界』がカンヌ国際映画祭でカメラ・ドール(新人監督賞)を受賞したことで注目を浴びた、女性の映画監督である。が、残念ながらどんな人であろうと、スランプはやってくるものらしい。ミランダは次作映画の脚本執筆に行き詰まり、まるでそのことから逃げるように、フリーパーパーに不用品の売買広告を出している一般の人々へのインタビューを試みる。『あなたを選んでくれたもの』は、この売買広告を出している人たちへのインタビュー集だ。

このご時世に、インターネットのフリマアプリではなく地元のフリーペーパーに売買広告を出すような人たちーー良い意味でも悪い意味でも普段まったく接する機会がない人々とミランダは交流することになる。Lサイズの革ジャケットを売りたい、生活保護を受けているトランスジェンダーのマイケル。インドの衣装を売りたい、ボンベイ出身の中年女性プリミラ。ウシガエルのオタマジャクシを売りたい、周囲に溶け込めない高校生のアンドルー。彼らの多くは、ミランダが取材許可をとるとき「私は映画監督です、不審人物ではありません」と自己紹介してもググることをしない。話の通じなさにミランダはときどき疲れてしまうが、この不協和から来る疲れこそが、他者と接する醍醐味でもあるのだろう。

「こんなインタビューに逃げて、意味あるのかな?」とミランダは途中で何度も立ち止まるが、結論からいうと、脚本執筆は徐々にいい方向に進む。『あなたを選んでくれたもの』は、ミランダの次の映画『ザ・フューチャー』のもとになるのだ。今回の本題とはズレるけど、目の前の問題に行き詰まってしまったら、立ち向かうのではなく徹底的に逃げてみるのもひとつの手だと、本書は教えてくれる。