出産のために最愛の相手を捨てるってめちゃくちゃハードボイルド

あれは10年ほど前のことでしょうか。当時親しかったとある知人女性の夢は、27歳までに結婚をすることでした。それを聞いたときにわたしの頭に浮かんだのは「その昔、女の結婚適齢期をクリスマスケーキに例えて、24歳までは売れるけど、25歳になると売れ残りって言われていたっけ」ということと「29歳の女性の葛藤を描いた、山口智子主演の『29歳のクリスマス』ってドラマ、あったな」ということでした。

五進法での桁上がりが節目のように思えて、人生に焦りやプレッシャーを抱く気持ちはわからないでもないけれど、もうずいぶん前から、人の結婚のタイミングに口を出すのは、余計なお世話という風潮がまかり通っている気がするし、“結婚適齢期”なんて言葉はしばらく耳にしていない。そういう意味でいうと彼女は、ずいぶんと前時代的な価値観を持って、それを実行しようと思っているのだなァ……なんて少々鼻白んだ思いを抱いたのは、まだ20代前半だった彼女が、清楚な黒髪に淡い色味のフレアワンピース、その上にカーディガンを羽織るような女子アナ風の風貌をしていたせいでもありますが、さらにひとつ疑問に思ったのは、27歳という年齢は少々中途半端ではないかということです。

27歳といえばカート・コバーン、ジム・モリソンやジャニス・ジョップリンといった数々のロックスターがこの世を去った年ですが、彼女のこだわりが、まさかそこに縁するわけではあるまい。では、なぜ27歳なのか。不思議に思って尋ねてみると、彼女が27歳にこだわったのにはきちんと理由があって、20代のうちに子どもを産みたいからだという。なるほど、五進法に当てはめる楔は、結婚ではなく出産だった。

彼女のファースト・プライオリティーを決めるのは

ところが当時、彼女が当時付き合っていた相手は、子どもはおろか、結婚する気すらない男性でした。恋は必ずしも条件に見合った相手と落ちるわけでもないから仕方ない。彼女は付き合った後、時間を掛けて相手の気持ちを変えていけばいいと考えていたようです。しかし、彼の気持ちはどうやら変わらなかったようで、付き合って2年後の節目に、彼女のほうから別れを切り出して、お互いに納得の上で別離することとなったのです。

「本当にすごく好きだったんだけど……」とオイオイと泣き崩れている彼女を見て、「だったら別れることないし、よりを戻せばいいのに」と思ったりもしましたが、彼女の人生のファースト・プライオリティーを決めるのは彼女自身です。わたしの場合は、【気の合うパートナーと過ごす人生>出産・子育て】だけれども、彼女が【出産・子育て>好きな恋人】と決めたのならば、それを貫くのがいいのだろうし、むしろ見方を変えれば、自分の生き方を貫くために、最愛の相手を捨てるってめちゃくちゃハードボイルド。どれだけ泣いても、まったくマスカラが滲まない彼女の顔を見て、そんなふうに思ったのでした。

Text/大泉りか