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  • 2016.11.29

バイブはなぜ生まれたのか――治療としての手マンとお医者さま

バイブ、電マといえばラブグッズの王様。でもこれ、実は19世紀後半からあったって知ってましたか?しかもその用途は、治療法としての手マンを楽にするための医療器具だったのです!いったい何を治すための道具だったのか?AVみたいに、治療している間に興奮しちゃうなんてことはなかったのか?歴史をひもといてみましょう!

バイブはいつからあったのか?

服部恵典 東大 院生 ポルノグラフィ 研究
by Josh Willink

 バイブレーター。それから、電マ。
AMの連載「ラブグッズのある生活」でも何度も紹介され、AM SHOPでも爆売れしている、大人のオモチャの王。

 ちなみに日立が作った電気マッサージ機「日立マジックワンド(Hitachi Magic Wand)」は、海外では最も有名なラブグッズの1つといっても過言ではなく、Wikipediaにページが用意されているほどである(参考)。ああ、HENTAIの国・日本のものづくりのすばらしきかな。
その快感たるや、まさに「魔法の杖(Magic Wand)」。賢者の石にあてがえば、秘密の部屋からポッターポッターである。
ヴォルデモートばりの「名前を言ってはいけないあの棒」だったバイブや電マは、最近では部屋に置いてもそれとバレないようなデザイン性に優れたものも続々と発売されて、カジュアルな存在になってきた。
AM読者のみなさんなら、1本や2本はクローゼットの奥にしまっていたって珍しくもなんともないだろう。

 ではこのバイブ、一体いつからこの世に存在したのか?
考えたこともないかもしれないが、感覚的に2、30年くらい前。それよりさかのぼってもせいぜい戦中戦後ぐらいをイメージしたのではないだろうか。

 だが、レイチェル・P・メインズ著『ヴァイブレーターの文化史』によれば、実はバイブが生まれたのは19世紀後半のことである。
1870年代には、ぜんまい式のもの、蒸気機関で動くものが発明されており、電気機械式のバイブ第1号は1880年代の初めに特許が取得されている。

 そんな昔に、「セックスそのものを楽しむ」という「反道徳」的な目的のための道具がなぜ生まれたのか?

 ……という問いの立て方そのものが実は誤りで、バイブはもともと医療器具として発明されたものなのだ。

 バイブが??? 医療に?????
先手を打っておくが、肩や腰に当てて「凝りがほぐれる~」みたいなしょうもねえオチではない。
バイブは女性器に当てていた。もっと言うと、バイブが誕生する前は手マンで治療していた。

 ますます謎は深まるばかりだ。
今、みなさんの頭の中では、いつか観た企画モノAVがフラッシュバックしているかもしれない。たとえばこんなふうに……。

手マンに乗り気じゃなかった医師たち

 病院の診察、あるいはエステやマッサージの施術を題材としたAVといえば、女性の胸や下半身に男の手が伸びてきて、
「女性ホルモンを分泌していきましょう(すすすっ)」
「やっ、やめてください……」
「いや、ここのリンパを刺激するのが大事ですから(くりくりくり)」
みたいなのが定番だ。

 女性がだんだん感じてくると、
「これは診察ですから、声を出さないようにしてください(ぬちゃちゃちゃちゃっ)」
なんて言い出し(あるいは逆に「声を出したほうがリラクゼーション効果が高まりますから」などと言い)、挙句の果てに、
膣内にもオイル塗っていきますね
なんて訳の分からないことを言っているのに、快感でペニスの挿入を拒めない女性(びくんびくん)なんていうシーンが非常によく登場する。
女性も好きなジャンルなのかもしれない。私も、少なく見積もってもこんなシーンを2兆回は観た気がする。

 しかし、その昔、手マンで治療していた実際の医療現場は、こんな悪徳淫乱医師の密かな愉しみのようなものではなかった。むしろ医師たちは手マンに全く乗り気ではなかったようだ。

 そもそも、手マンで何を治療しようとしていたのか。それはヒステリーである。
今では「ヒステリー」というと、“病的なまでに”興奮して泣いたり怒ったりする様子を指すけれども、紀元前4世紀から全米精神医学会(APA)が医学用語としての採用を取り下げた1952年までの24世紀もの間、ヒステリーとはまさに病だったのだ。

 古代から中世にかけては、子宮が体内で暴れ出すことで発作が起きると考えられており、近代にいたっても、少なくとも子宮の異常がヒステリーの原因であるとされていた。
ゆえにこの治療には、セックスや陰部の按摩が効果的だと信じられていた(女性のオナニーは不道徳的だったからなかなか推奨されなかった)。
ということは、手マンとはいえ、当時は純粋な「医療行為」だったのだ。うまくいかなかった場合は医療ミスになる。

 にもかかわらず、ご存知の通り手マンには技術が必要で、なかなか難しい。もし簡単だったなら、われわれ現代の男女はここまで悩んでいないし、AMもこんなに大きなサイトになっていないだろう。
しかもめちゃくちゃ手が疲れる。腱鞘炎になった医者も少なくなかったらしい。

 だから、医者は手マンによるヒステリーの治療はしたがらなかった。だがヒステリー患者は、完治するわけでもないが死ぬわけでもないので、定期的な治療で半永久的に金儲けできる貴重な存在でもあった。
そこで、「誰でも簡単に陰部の刺激によってヒステリーを治せるように」と登場したのが、バイブなのである。それが今や、「ラブグッズ」の名で売られているという状況なのだ。

 ちなみに、ヒステリーの治療には、バイブ以前には「水治療」という方法があった。
水治療……。察しの良い方は気付いたかもしれない。そう、アレである。

病を治すシャワオナ

「水治療」とは一体何なのか。
これは現代でも用いられる言葉で、温泉につかったり、水流を体に当てて血流をよくしたり、水中の浮力を利用した運動を行ったり、水を使った理学療法全般を指す。
だが、ヒステリーの治療においては、基本的に「シャワオナ」を指す。要するに、激しい水流を下半身に当てることで刺激を与えるのだ(自分で当てているわけではないので正確には「オナ」ではないが)。

『ヴァイブレーターの文化史』によれば、たとえば水療法に関する1843年の著作には、このような記述がある。

 水のジェット噴流を浴びせると、最初は痛い感じがするけれども、すぐに水圧(による振動)の作用で冷水に対する生体の反応が現われる。つまり皮膚が発赤を呈するわけである。そして安定状態に戻るわけだが、この時に多くの人たちが快感を経験し、それがあまりにも心地よいものなので、彼女には処方で指定された時間、すなわち通常なら4~5分間を超えないように注意する必要がある。灌水浴を終えた患者は自分で身体を拭き、コルセットを締め、軽快な足どりで自分の病室に戻って行く。

「発赤を呈する」とか小難しい書き方をされると、なんだか逆に馬鹿らしい。
医者も患者も、「これはエロいことじゃないぞ!」と必死に自分に言い聞かせているような、しかし、しっかりとその意味を分かっているような、そんな気がする。

 先ほど、医師はAVとは真逆で、手マン治療に乗り気ではなかったと書いた。では患者はどうだったのだろう?
女性の声というのは歴史に残らないもので、『ヴァイブレーターの文化史』の著者も史料がほとんどなかったと書いている。

 だがきっと、中には「治療」に乗り気な患者もいたにちがいない。
まじめ医師と痴女患者。AVの新ジャンルの鉱脈が眠っている気がしてくる。

  *  *  *

『ヴァイブレーターの文化史』をただのオモシロ雑学本のように紹介してしまったが、実際は一流の研究書である。
「バイブについては詳しくなったけど、それで?」というところで終わらず、バイブ1本で医学史や女性史を巧みに描き出す。
その鮮やかさを紹介するには紙幅が足りないので、ぜひ実際に読んでたしかめていただきたい。

 しかし、「陰部按摩という治療法を楽に行うための道具としてバイブが生まれた」という話は、我々がそうであったように、偉い学者先生たちにとってもなかなか信じられない話だったようだ。
著者のメインズは、論文が学術雑誌に掲載されるにふさわしいとちゃんと判断された後になって、「この論文で引用されているヒステリー研究者の存在は捏造じゃないか? ついでにメインズという著者も存在しないんじゃないか?」と疑われたという。
さらには、この研究が原因で大学をクビになってもいる。これもまた、信じられない話だ。

 だがおそらくは我々も、いまは当たり前すぎて疑わないようなことを、100年後の人類に「信じられない」と言って笑われるに違いない。
「ちんこをまんこに入れるなんて、犬や猫じゃないんだから(笑)」とか。
セクシュアリティの歴史を調べることの意義も楽しさもきっと、「当たり前」を疑うこのような想像力の涵養にあるのだ。

Text/服部恵典

ライタープロフィール

服部恵典
東京大学大学院修士課程1年。同大学卒業論文では、社会学的に女性向けアダルト動画について論じる。

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