手マンに乗り気じゃなかった医師たち

 病院の診察、あるいはエステやマッサージの施術を題材としたAVといえば、女性の胸や下半身に男の手が伸びてきて、
「女性ホルモンを分泌していきましょう(すすすっ)」
「やっ、やめてください……」
「いや、ここのリンパを刺激するのが大事ですから(くりくりくり)」
みたいなのが定番だ。

 女性がだんだん感じてくると、
「これは診察ですから、声を出さないようにしてください(ぬちゃちゃちゃちゃっ)」
なんて言い出し(あるいは逆に「声を出したほうがリラクゼーション効果が高まりますから」などと言い)、挙句の果てに、
膣内にもオイル塗っていきますね
なんて訳の分からないことを言っているのに、快感でペニスの挿入を拒めない女性(びくんびくん)なんていうシーンが非常によく登場する。
女性も好きなジャンルなのかもしれない。私も、少なく見積もってもこんなシーンを2兆回は観た気がする。

 しかし、その昔、手マンで治療していた実際の医療現場は、こんな悪徳淫乱医師の密かな愉しみのようなものではなかった。むしろ医師たちは手マンに全く乗り気ではなかったようだ。

 そもそも、手マンで何を治療しようとしていたのか。それはヒステリーである。
今では「ヒステリー」というと、“病的なまでに”興奮して泣いたり怒ったりする様子を指すけれども、紀元前4世紀から全米精神医学会(APA)が医学用語としての採用を取り下げた1952年までの24世紀もの間、ヒステリーとはまさに病だったのだ。

 古代から中世にかけては、子宮が体内で暴れ出すことで発作が起きると考えられており、近代にいたっても、少なくとも子宮の異常がヒステリーの原因であるとされていた。
ゆえにこの治療には、セックスや陰部の按摩が効果的だと信じられていた(女性のオナニーは不道徳的だったからなかなか推奨されなかった)。
ということは、手マンとはいえ、当時は純粋な「医療行為」だったのだ。うまくいかなかった場合は医療ミスになる。

 にもかかわらず、ご存知の通り手マンには技術が必要で、なかなか難しい。もし簡単だったなら、われわれ現代の男女はここまで悩んでいないし、AMもこんなに大きなサイトになっていないだろう。
しかもめちゃくちゃ手が疲れる。腱鞘炎になった医者も少なくなかったらしい。

 だから、医者は手マンによるヒステリーの治療はしたがらなかった。だがヒステリー患者は、完治するわけでもないが死ぬわけでもないので、定期的な治療で半永久的に金儲けできる貴重な存在でもあった。
そこで、「誰でも簡単に陰部の刺激によってヒステリーを治せるように」と登場したのが、バイブなのである。それが今や、「ラブグッズ」の名で売られているという状況なのだ。

 ちなみに、ヒステリーの治療には、バイブ以前には「水治療」という方法があった。
水治療……。察しの良い方は気付いたかもしれない。そう、アレである。

前後の連載記事