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  • 2013.11.23

前田敦子が“実家依存女子”を好演!食べる、寝る、マンガを読む自堕落な日々に…『もらとりあむタマ子』

 一人暮らしと実家暮らし。この違いは大きいかもしれません。
どちらが良いとは限らない。実家を鬱陶しく思ってしまう時もあれば、Googleマップで検索してしまうほど寂しい時もある。と、“実家”に対する気持ちはいつだって複雑。まるで恋みたいです。

 恋に仕事に、忙しい毎日に追われる日々。ああ、10代の頃の夏休みのように、ダラダラとテレビ見てゲームしてマンガ読んで過ごしたい!この映画は、恋と仕事とはかけ離れた世界にいる女の子が主人公です。食べて、寝て、マンガを読み続けています。こんな女の子が羨ましい? それとも……。
『23才の夏休み』を過ごしてしまっている、タマ子の日常を覗いてみましょう。

たけうちんぐ 山下敦弘 向井康介 前田敦子 康すおん 鈴木慶一 中村久美 富田靖子 ビターズ・エンド もらとりあむタマ子 モラトリアム ノスタルジー 実家依存 寄生 親子
©2013『もらとりあむタマ子』製作委員会

 23才ニート女子という、華やかさの欠片もない主人公・タマ子を演じるのは元・AKB48の前田敦子。
一世を風靡したアイドルが、まさか田舎でくすぶっている女の子になり切るなんてムリでしょ? いやいや、これがちゃんとだらしなくて、色気なくて、ダメダメな女の子にしか見えないのです。でも、ちゃんと可愛くて憎めないからビックリ。

 このような愛らしい人物像を描くのは、さすが山下敦弘監督。これまでに『ばかのハコ船』から『天然コケッコー』まで幅広い人間模様を撮り続けていますが、本作は「停滞した日常」×「田舎の女の子」ということでちょっぴり集大成にも感じられます。


     

“実家依存”女子は一歩踏み出せるのか?

 【簡単なあらすじ】
 東京の大学を卒業したタマ子(前田敦子)は、就職もせずに父の善次(康すおん)が一人で暮らす実家に“帰省”する。しかし、これが“寄生”になっていることに善次は頭を抱える。経営するスポーツ用品店・甲府スポーツをろくに手伝うこともなく、食っては寝て、ゲームしてマンガ読んで、ダラダラと暮らす毎日。

 そんなある日、タマ子は「就職活動するので、ちゃんとした服が欲しい」と善次にねだる。ようやく本気になってくれた娘に善次は喜ぶが、その真相は……。
やがて、善次の再婚話が浮上する。その相手をこっそりリサーチしに行くことで、タマ子の日常がほんの少し揺らぎ始める――。

心を通い合えない父と娘の、果てしなく続く怠惰な日常

たけうちんぐ 山下敦弘 向井康介 前田敦子 康すおん 鈴木慶一 中村久美 富田靖子 ビターズ・エンド もらとりあむタマ子 モラトリアム ノスタルジー 実家依存 寄生 親子
©2013『もらとりあむタマ子』製作委員会

 ファーストシーンからだらしない。中途半端に汚い部屋でだらけた格好のタマ子が、布団に寝そべりマンガを読む。小学生? 中学生? いいえ、これが23才の女の子の姿なのです。

「ん」「んー」「んー!」

 父・善次との会話はこんな返事で成り立つ。でも、その先には未来が一切見えません。「ん」で終わるしりとりのようなものです。
そして特に印象的なのは、テレビでニュースを観たタマ子が吐き出したセリフと善次の返答。

「ダメだな、日本は」
「ダメなのはお前だろ!!」

 ほんっと、的確なツッコミです。
タマ子と善次の気持ちがことごとくすれ違う。タマ子の望んでいることを善次は気付かないし、タマ子が嫌がることを善次は知らない。だからといって、「家を出ていけ」と強く言えない父親にダメ出しするタマ子の超絶ダメっぷりは放っておけない。どちらも悪い人じゃないんだから、少しは心が通じ合わせて、幸せになってほしい。
観ていると、この二人をいつの間にか応援したくなっているのが不思議なものです。


タマ子の未来に答えはなく、映画にも答えがない

たけうちんぐ 山下敦弘 向井康介 前田敦子 康すおん 鈴木慶一 中村久美 富田靖子 ビターズ・エンド もらとりあむタマ子 モラトリアム ノスタルジー 実家依存 寄生 親子
©2013『もらとりあむタマ子』製作委員会

 描き出されるのは、甲府スポーツの春夏秋冬。季節と服装は変わっても、タマ子自身は変わらない。ただ、少しずつ変化していく周囲と日常を傍観している。この緩い停滞感と絶望感。じわじわと培われていく被害妄想。それがタマ子の背中を押すのか、心を蝕むのか。

 映画は、タマ子に同情するわけではない。カメラはタマ子とある一定の距離を保つ。この客観的でもなければ主観的でもない距離が、観る者の日常に溶け込むような絶妙な位置なのです。
本作はタマ子みたいな女の子を糾弾する映画でもなければ、賞賛する映画でもない。ただ、そこに流れている人間模様を切り取り、タマ子というモラトリアム女子に幾重にも折り重なる印象を植え付けています。

「こんな奴イヤだ」「こうはなりたくない」
「でもちょっと羨ましい」「でも、ちょっと可愛いじゃん」

 答えのない感想こそが、この映画にとっては何よりの答えなのかもしれない。そう、タマ子には答えが見つからない、やりたいことが見つからないのです。
でも、終始ぶすっとしたタマ子が時折見せる、あどけない少女のような表情と笑顔。未来が見えなくても、ちゃんと笑える。この瞬間こそが、この映画の最大の魅力ではないでしょうか。

悶々とした感情に振り回された頃を思い出して!

 頑張ってみたいけど頑張れない。だって、頑張れるものが見つからない――。
このように悶々とした人は多いんじゃないでしょうか。同じ女子として、もむとりあむなタマ子をどう思う?

 自分とタマ子に近いものを感じてしまったら、少し注意が必要。
ただ、それは少数派で、ほとんどの人は、タマ子が遠く感じてしまうでしょう。それは、あの「モラトリアム」だった日々が薄れつつあるってこと。「モラトリアム」は「ノスタルジー」にも似ていて、今一生懸命自分の責任で生きている人は、タマ子の生活に、なぜか懐かしくて切ない気持ちになると思います。

 何かに守られているけどどこかふわふわした彼女の日常。それは誰もがどこかで経験して知らぬ間に卒業しているのです。映画を見終わった後は、今の忙しい毎日にまた違った輝きを感じられるかもしれませんね。

11/23(土・祝)より、新宿武蔵野館他全国順次ロードショー!

監督:山下敦弘
脚本:向井康介
キャスト:前田敦子、康すおん、鈴木慶一、中村久美、富田靖子
配給:ビターズ・エンド
2013年/日本映画/78分
URL:映画『もらとりあむタマ子』公式サイト

Text/たけうちんぐ

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