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  • 2016.06.14

登場人物の9割がクズ!綾野剛が史上最低の刑事に『日本で一番悪い奴ら』

柔道の腕前を買われて北海道警察の刑事となった諸星は、先輩刑事から裏社会で『S(スパイ)』を作って点数を稼ぐようアドバイスを受ける。やがて諸星は暴力団員と手を組み、危険な捜査や取引に溺れていく——。『凶悪』の白石和彌監督が綾野剛主演で描く犯罪ドラマ。

たけうちんぐ 映画 日本で一番悪い奴ら 綾野剛 中村獅童 YOUNG DAIS 植野行雄 ピエール瀧 白石和彌 稲葉圭昭 恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白
©2016「日本で一番悪い奴ら」製作委員会

 タイトルからヤクザや殺し屋を想像したのに、まさかのまさか。
ひっくり返った。
“一番悪い奴ら”の正体は、なんと警察だった。
市民の安全を守るはずの存在が悪い奴ら、しかも実話に基づいているとは一体…。

 映画だからこそ許される。
というより、映画にしかできない。
テレビだと苦情が殺到。
ネットだと大炎上が必至。
クレームが殺到するレベルの不謹慎な悪事が詰め込まれた、映画だけが描くことを許された実録モノに一瞬たりとも目が離せない。

 実在の事件を基にした 『凶悪』で一躍脚光を浴びた白石和彌監督がまたも実話に挑む。
2002年に北海道警察で起きた“日本警察史上最大の不祥事”とされた「稲葉事件」を題材に、一人の正義感溢れる刑事の波乱万丈の人生を描く。

  悪の手に染まっていく主人公の刑事・諸星を、最近では 『リップヴァンウィンクルの花嫁』の好演が記憶に新しい綾野剛が演じる。
中村獅童、YOUNG DAIS、植野行雄、ピエール瀧といった一癖も二癖もある顔ぶれが勢揃いし、“登場人物の9割がクズ”な実録映画を派手に盛り立てる。

22歳から48歳までを演じ切る綾野剛

たけうちんぐ 映画 日本で一番悪い奴ら 綾野剛 中村獅童 YOUNG DAIS 植野行雄 ピエール瀧 白石和彌 稲葉圭昭 恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白
©2016「日本で一番悪い奴ら」製作委員会

 とにかく綾野剛が強烈だ。 彼の演技に引っ張られるように物語が進み、史上最低の刑事であるはずなのに諸星の魅力にどんどん取り憑かれていく。

 22歳から48歳まで男の半生記を一人で演じ切る器量にヤラれる。
22歳の柔道部上がりの諸星は未熟ながらも正義感に溢れ、女性にもウブで可愛らしい顔つきをしている。
それは31歳で拳銃を横流しして、暴力団と手を組む憎たらしい顔つきとはまるで別人だ。
やがて48歳となった白髪混じりの落ちぶれた中年の姿からは加齢臭すら漂わせ、何人もの役者を見ているかのような百面相の演技に度肝を抜かされる。

 諸星のキャラクターは“単なる悪い奴”だけでは済まされない。
弱さを隠すために強気を装い、背伸びするように立ち回る姿はどこか人間臭くて愛おしい。
違法捜査にクレームを出した暴力団の黒岩と面会するシーンは、怯えを隠すために顔をブルブル震わせながらも激しい剣幕で怒鳴る。
大胆に見えて繊細な一面を所々で垣間見せるのが、女性心をくすぐりそうで同性としてなんだか悔しい。
めちゃくちゃ悪い奴なのに、その悪事を心のどこかで応援してしまうのが本作の最も危ういところなのです。

「正義の味方、悪を絶つ」その理念の行方は?

たけうちんぐ 映画 日本で一番悪い奴ら 綾野剛 中村獅童 YOUNG DAIS 植野行雄 ピエール瀧 白石和彌 稲葉圭昭 恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白
©2016「日本で一番悪い奴ら」製作委員会

 諸星は“正義”を重んじている。図った悪事を数えると信じ難いが、彼の北海道警察という組織への忠誠心は本物だ。

 作品のタイトルが『悪い奴』ではなく『悪い奴ら』と謳っているのは、当時の北海道警察こそが本当の悪だからだろう。
それは我々の生活圏内にグループ単位で、会社単位で、国単位でそれぞれ例えることができる。
組織が一つでも嘘をつくと、その嘘を隠すために組織の中の何人もが幾つもの嘘を重ねていく。
諸星はそのうちの一人だ。

 ところが、その嘘が本当になる瞬間がある。
山辺の結婚パーティーのスピーチで流した涙は本物で、本当の友情だ。
悪は悪でも共に笑い合い、信じ合う関係を築く。
それでも、その“本当”は嘘のせいで長続きしない。
罪が積み重ねられることで仲間たちはどんどん離れていき、諸星が孤独になっていく姿にもどこか青春映画のような寂しさが表れる。

「正義の味方、悪を絶つ」――諸星が尊重していた警察という組織の理念は皮肉にも、文字通りに悪が絶たれることで悪い奴らの青春が終わっていく。

 諸星のアンチヒーローとしての佇まいは映画の世界でこそ息吹をもたらし、その生き様がスクリーンに映える。
チャカ、シャブ、セックスの三拍子。
「ヤバいもの見ちゃったかも」って感覚は最近の作品でなかなか味わえないし、このインモラルはテレビやネットに映るものではない。
そういう意味では、映画というものの存在意義に改めて気付かされる。

 諸星が信じる“正義”は、ひょっとしてそのへんに転がっているかもしれない。
組織の数だけそれは身を潜め、本作で描かれる北海道警察のように悪とは無縁の表情をしているだろう。
スクリーンにしか映らない“悪”を見逃さないでほしい。
本当の正義とは一体何なのか、その答えに少しでも近づくために。

ストーリー

 大学柔道部での腕を買われて、北海道警察に勧誘されて刑事になった諸星(綾野剛)は捜査も事務も満足にできず、先輩刑事から邪魔者扱いされていた。
そんな中、ベテラン刑事・村井(ピエール瀧)に刑事として認められる極意を教えられる。

「犯人を挙げて点数を稼げ。そのためには協力者=S(スパイ)を作れ」

 やがて諸星は村井の言う通りに裏社会との接触を図り、内通を得て暴力団組員を覚せい剤・拳銃所持で逮捕する。
功績を讃えられた諸星だが、令状のない違法捜査に暴力団側が激怒。
幹部の黒岩(中村獅童)と死ぬ覚悟で面会するが、無鉄砲な性分を買われて打ち解ける。

 その後、S(スパイ)となった黒岩と手を組んで、ロシア語が堪能な山辺(YOUNG DAIS)とパキスタン人のラシード(植野行雄)とともに拳銃の横流し、違法まがいの捜査、やらせ捜査など“悪”に手を染めていく――。

6月25日(土)全国ロードショー

監督:白石和彌
原作:稲葉圭昭 「恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白」(講談社文庫)
キャスト: 綾野剛、中村獅童、YOUNG DAIS、植野行雄(デニス)、ピエール瀧 他
配給:日活
2016年/日本映画/135分
URL: 『日本で一番悪い奴ら』公式サイト

Text/たけうちんぐ

ライタープロフィール

たけうちんぐ
ライター/映像作家

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