死ぬまでには観ておきたい映画のこと

笑わない二階堂ふみが死んだはずの母と過ごす夏『ふきげんな過去』

毎日が死ぬほど退屈な女子高生・果子は母親・未来子と再会しても、図々しく居候する未来子に苛立ちを隠せない。だが、彼女の出現によって果子の夏が特別なものに変わっていく——。二階堂ふみ×小泉今日子が母娘を演じる、前田司郎監督の最新作。

たけうちんぐ 映画 ふきげんな過去 前田司郎 小泉今日子 二階堂ふみ 高良健吾 山田望叶 兵藤公美 山田裕貴
©2016「ふきげんな過去」製作委員会

「私があんたの本当の母親よ」
「あーやっぱり?」
「……えっ?」

 完全に冷え切っている。普通なら抱き合ったり泣き合うシーンになるはずが、絶妙な低い温度で交わす。
そもそも“普通”って何だろう。《女子高生のひと夏の冒険》と聞くと、友だちと旅行したり恋愛したりとキラキラしたものを想像する。
が、主人公・果子は違う。北品川の都会と下町を行ったり来たり。豆をむいたり。運河を眺め続けたり。爆弾を作ったり。……爆弾?!
日常と非日常が入り交じる、一風変わった“夏休み映画”がここにあります。

 劇団「五反田団」の主宰であり、『横道世之助』の脚本で知られる前田司郎が『ジ、エクストリーム、スキヤキ』に続く監督2作目を放つ。
『私の男』の二階堂ふみが終始冷めた目で物事を見つめる女子高生・果子を、『グーグーだって猫である』の小泉今日子が18年前に死んだはずの叔母(のちに果子の母親だと分かる)・未来子を演じる。
謎の男を高良健吾、過去の父親を板尾創路が演じ、冷めた人間模様と独特のセリフ回しでシュールに捻った世界観に誘われます。

「見えるものなんて見えてもしょうがない」

たけうちんぐ 映画 ふきげんな過去 前田司郎 小泉今日子 二階堂ふみ 高良健吾 山田望叶 兵藤公美 山田裕貴
©2016「ふきげんな過去」製作委員会

 果子(二階堂ふみ)が運河を見つめるのは、ここではないどこかへ流れていきたい心情ゆえか。
ずっとブスーッとしている。他人と同調しない。愛想笑いなんてしない。未来なんてたかが知れている。
「私には未来が見える」と言い放ち、何周かして可愛く思えてくる。

 とにかく冷めている。未来子(小泉今日子)が人間の本質的な孤独について遠い目をして語っても果子はキレるし、実の母と発覚して抱き合うはずの場面でもとんでもない言葉を投げつける。
この絶妙な交わし方がたまらない。家族で豆をむきながら会話するシーンも、カット割りが一切ないままに繰り広げられるセリフ回しのスピード感が物凄い。
一見何の変哲のない夏の風景でも、ほんの少しでも非日常が入ると劇的にその世界観は変わってしまう。

 本作には「見えるものなんて見えてもしょうがない」というセリフが何度か登場する。
果子と未来子は心を通わせないが、これが唯一共通する心情と言える。
二人とも退屈を打ち砕こうと、日常の中で刺激的な物語を模索する。
それはあながち特別でもなく、案外誰しもが心の奥底で望んでいることなのかもしれない。