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  • 2016.04.24

紛争よりエロティシズムが規制される時代『LOVE【3D】』ギャスパー・ノエ監督 インタビュー

観る者の恋愛トラウマを視覚的にも精神的にも呼び覚ます強烈な映画――『LOVE【3D】』。今回は本作を手がけたギャスパー・ノエ監督にインタビューを行い、日本とヨーロッパの性に関する捉え方の違いや、登場人物たちが実在しているかのようなリアルなキャラクター、そして、時系列を遡る回想劇である意味など興味深いお話を伺いました。

 現在公開中の映画『LOVE【3D】』は、観る者の恋愛トラウマを視覚的にも精神的にも呼び覚ます強烈な作品だ。
数々の衝撃的な作品で知られるギャスパー・ノエ監督がなぜ今回、マーフィーとエレクトラ、二人の男女の恋愛を取り上げたのか。
《精子や性器が飛び出す3Dセックスシーン》という触れ込み以上に、肉体的な生々しさを超越した精神的な恋愛描写に興味をそそられる。

 日本とヨーロッパの性に関する捉え方の違いや、登場人物たちが実在しているかのようなリアルなキャラクター、そして、時系列を遡る回想劇である意味など、来日した監督自身にお話を伺った。
そこから浮かび上がる、極私的・3D恋愛映画とは?

今はバイオレンスよりエロティシズムが規制されてしまう。

ギャスパー・ノエ 『LOVE【3D】』 たけうちんぐ
ギャスパー・ノエ監督

 インタビューの冒頭、性描写の規制が厳しい現代について疑問を投げかけたギャスパー・ノエ監督(以下、監督)。

監督「日本とヨーロッパとでは社会を見る目が少し違いますが、ヨーロッパでいうと近年は恋愛関係のことよりも男同士の力の見せつけ合いで、中東を始め紛争が色んなところで勃発している。そういった不穏な動きが《愛》から遠のき、戦いとかそういう暴力的なものに時代が移ろいでいる。
もちろん普通に男女の恋愛関係は存在するけど、社会の集団としての注目の的が紛争などそういう暴力的なものに注目がいっている気がします」

―― 『LOVE【3D】』の3D描写に日本ではボカシが入っています。監督は本来あるはずの“モノ”を粛清する現状をどのように感じていますか。

監督「今は通信・コミュニケーション手段が発達するのと相反する形で、失われてきている価値観がたくさんあります。西洋社会では肉体的でエロティックな映画がだんだん減ってきていて、その逆に武器を持った暴力的な戦争モノが氾濫しています。
友人に聞いたところ、インスタグラムなどでは女性の胸の写真がNGになってしまっているらしいですね。女性の胸というものは普通にあるものだし、人は産まれたら母乳を吸うのが最初の社会との繋がりであり、最初の幸福感をもたらしてくれるものなのに。
そういった自然にあるものがNGになってしまう反面、ナイフや機関銃や爆撃の風景などが規制されないのがおかしいように思います」

―― どうして、そのような流れが生まれたのでしょうか。

監督「今の世の中は何でもコントロールできなければいけない社会になってきている。愛の衝動や肉体的欲求は誰しもが持つものなのに。
波乱に満ちて傷を負ったり、混乱したり、苦痛を伴ったりするとネガティブな部分はコントロールが効かなくなってしまう。そんな姿はあまり表に出してはいけないという風潮もあるのかもしれませんね」

モデルは身近なカップルの破綻

ギャスパー・ノエ 『LOVE【3D】』 たけうちんぐ
©2015 LES CINEMAS DE LA ZONE. RECTANGLE PRODUCTIONS. WILD BUNCH. RT FEATURES. SCOPE PICTURES.

―― 日本はオープンにセックスを語りづらい風潮があります。
セックスに関してパートナーとどこまで正直に向かい合えばいいのか、そしてその魅力の感じ方で男女に違いはあるのでしょうか?

監督「たしかに、ヨーロッパでは人前でキスしたり抱き合ったりする。でも、日本だとプライバシーな部分が影響しているのか、あまり人前ではできない。それが社会として違うのかなと思います。
でも、私の知っている限りでは、日本人は意外とオープンに語っていると思う。写真展とかで会う人はみんなセクシャリティについて語る人ばかりですよ。世界を色々と見てきましたが、その中でも日本はそういうものが語られる社会の一つだと思う。会う人が特殊というのもありますが……(笑)。
私の友人で日本に旅行にきた人も、乗った電車の中で普通のサラリーマンがエロ漫画を読んでいる姿に出会ったりしてるしね」

―― 写真家の荒木経惟氏や叶姉妹など、ノエ監督と交流のある人の印象かもしれませんね。それは日本人の感性というより、クリエイティブな人たちの感覚に近いと思います。
マーフィーとエレクトラが芸術家志望の設定であるのも、そこから来ているのでしょうか?

監督「マーフィーは映画監督志望だけど何かを成し遂げたわけではなく、エレクトラも一応絵は描いているがまだ初心者です。私自身の周りにはそういう人が多いのもあって自然にそういう設定になりました。
実際そういった友人でアーティスト的なことをやっているとは言うけれど、あまり作品を作っていないし、大した活動をしているわけでもない。根気もやる気もなくてパーティーばかりやっていますよ(笑)。
東京やパリやニューヨークのような場所でいつも問題になっているのが、《今日は仕事するぞ》と思っても、四六時中《パーティーに来ない?》って誘惑がたくさんあること。そのせいで翌日、二日酔いとかで全く仕事ができないとか……」

ギャスパー・ノエ 『LOVE【3D】』 たけうちんぐ
ギャスパー・ノエ監督

―― そういう意味ではやはり、身近な人を題材にしているのでしょうか?

監督「この映画で描いてるように、アルコールの飲みすぎやパーティーのしすぎで、カップルの関係が破綻するという失敗例をたくさん見てきました。自分の身の回りに頻繁にある光景をそのまま描いています。
アルコールを飲むと気を失って失言してしまい、翌日に《そんなこと言ってない!》とかそういうことの繰り返し。一番最悪なのが自分の言うことや他人の言うことを忘れるということで(笑)」

―― よくあります(笑)。
劇中、マーフィーはエレクトラに何でも求めたがる印象を受けました。「子どもが欲しい」とか「抱きしめてほしい」とか、そうした欲求が悪い方向に向かったのでしょうか。また、パートナーに愛を求めるだけではダメなのでしょうか?

監督「2人は相思相愛ですが、マーフィーはお酒が入るとバカなことをしてしまう。すぐそこに彼女がいるのに、トイレで別の女の人とヤってしまったりと愚かなところがあって。
彼女のほうもプライドが高いから、《私だって浮気したのよ》って見栄を張る。互いが見栄を張ることで、カップルとしてダメになっていく。一回の浮気でダメになり、それが2人のトラウマになってしまうというのはよく見聞きすることでした。
求めたがることが悪い方向に向かったというより、それぞれの愚かさや見栄の張り合いが二人を破綻させた原因だったと思います。
そして、エレクトラのほうがマーフィーより成熟していることが、マーフィーを幼く見せているのかもしれません」

過去に遡ることで恋愛における悲しみや切なさを描く

―― 監督の過去の作品『アレックス』同様、時間を遡っていく回想が印象的でした。それにより、どのようなことを表現しようとしましたか?

監督「たとえば、冒頭でこの船が沈むと分かっていてその経緯を振り返るみたいに、2人が破綻している状態から始めました。
過去に遡る途中、2人の色んなラブシーンが登場するけれど、その全てが決してエロティックではなく、それぞれに悲しみを伴っていたり、切ない音楽が流れています。
ただ単にエロティックな映画として観るというより、この2人が破綻すると分かって観ることで、不安や悲しみや切なさとかが感じられる。だから、現代から過去に遡り、《この2人に一体何があったのか》を徐々に解き明かしていく手法をとりました」

ギャスパー・ノエ 『LOVE【3D】』 たけうちんぐ
©2015 LES CINEMAS DE LA ZONE. RECTANGLE PRODUCTIONS. WILD BUNCH. RT FEATURES. SCOPE PICTURES.

―― そして、マーフィーを取り巻く2人の女性キャラクターが対象的で印象に残りました。
情熱的で感情に左右されがちなエレクトラと、常に受け身のオミ。2人をこのキャラクターにしたのはなぜですか?

監督「実は元々初期に考えていた人物設定とは、キャスティングしていくうちに変わってきました。
元々エレクトラは感情的な人ではなくて、もう少しバランスの取れたキャラクターを考えていた。オミもお人形さんみたいで脆く、アジア人でも面白いかなと。そして、マーフィーも彼女であるエレクトラと凸凹コンビにするためにダスティン・ホフマンみたいな小柄の男性にしようと考えていました。
ところが、キャスティングで色んな人に会っていくうちに《こういう人のほうが面白い》となり、オミはクララ・クリスティンというデンマーク人で存在感がある人になったり…。
結果は対象的になったけど、もともとそこまで考えていなかったんです。面白い組み合わせだなと思っていたら、自然に自分の周りにいる人たちみたいな性格になりましたね」

*****
 本作がただのエロティシズムに満ちた映画に落ち着かず、全ての人の恋愛の経験を思い起こす作品になったのは、3D描写以上に奥行きのある回想劇のせいなのかもしれない。
身近な人を題材にしたプライベート・フィルムに味付けをすることで、悲しみや切なさといった精神的な感情を呼び起こすのだろう。

 当たり前にある“モノ”であるはずの男性器や女性器などにボカシが入り、当たり前にあってはならない銃や爆弾が今もなお数多くの劇場のスクリーンで飛び出している。

“3Dセックスシーン”に誰もが反応するが、逆に今までになぜそれがなかったのか。監督が冒頭で語った現代の疑問から、それについて深く考えさせられた。

『LOVE【3D】』は現在全国公開中!

監督・脚本:ギャスパー・ノエ キャスト:カール・グリスマン、アオミ・ムヨック、クララ・クリスティン
配給:クロックワークス
原題:LOVE 3D/2015年/フランス・ベルギー合作映画/135分/R18

ライタープロフィール

たけうちんぐ
ライター/映像作家

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