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  • 2015.04.22

時を超え二つの愛の物語が起こす、運命の奇跡『カフェ・ド・フロール』

1960年代のパリ、シングルマザーとして幼い息子に愛情を注ぐジャクリーヌ。そして、現代のモントリオール、離婚の悲しみから立ち直れないでいるキャロル。愛に溢れた全く接点のない二人を、ある音楽が一つにつなげる——。『ダラス・バイアーズクラブ』でアカデミー賞を賑わせたジャン=マルク・ヴァレ監督が描く“神秘的”ラブ・ストーリー。

 人の一生は限られている。その中で叶えられる夢は少なく、また愛を実現するのも難しい。

「この人と私は運命で繋がっている!」

 そんな確信をもてることが、全世界でいくつ起きているんだろう。その1年後、いや1ヶ月後、はたまた1週間後、その確信はあっけなく切り裂かれて、また新たな「運命の人(自称)」とめぐり合うことになる。

 愛はいくつも叶わず、朽ち果てていく。誰もがそれを分かっている。でも、本作はその事実に刃向かう。愛は運命なんだと、必然なのだと、時空の狭間で吠えている。

『カフェ・ド・フロール』。まるでオシャレ女子が嗜むアート系映画の匂いがするタイトルだが、その実態は激情に満ち溢れたラブ・ストーリーなのです。

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© 2011 Productions Café de Flore inc. / Monkey Pack Films

『ダラス・バイアーズクラブ』でアカデミー賞3冠に輝き、その名を知らしめたジャン=マルク・ヴァレ監督の過去の作品から、このような傑作が掘り出されました。

 歌手、モデルと幅広く活躍するヴァネッサ・パラディを主演に、1960年代と現代で時も場所も違う愛が交錯する。
過去のパリの街の片隅でダウン症の息子を持つシングルマザーをヴァネッサが演じ、現代のモントリオールで離婚後の生活に悩むDJの男をミュージシャンのケヴィン・パランが演じる。

 二つの時代を繋げるのは、マシュー・ハーバートの名曲『カフェ・ド・フロール』。ピンク・フロイド、シガー・ロスらの曲がそれぞれの愛を彩り、全く新しい“音楽映画”を作り上げています。


“運命”は存在するのか?

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© 2011 Productions Café de Flore inc. / Monkey Pack Films

【簡単なあらすじ】
 1969年のパリ。美容師として働きながらダウン症の息子を女手一つで育てるシングルマザーのジャクリーヌ(ヴァネッサ・パラディ)は、息子を普通の学校に通わせ、その成長を生きる糧にしている。

 しかし、ある日ダウン症の少女が転入し、息子とその子と片時も離れないことが学校で問題になる。学校から専用の施設に入れるよう提案されるジャクリーヌだが、断固として受け入れない。

 一方、現代のモントリオール。人気DJとして活躍するアントワーヌ(ケヴィン・パラン)は2人の娘と恋人と何不自由なく幸せな日々を送っている。
だが、彼の別れた妻キャロル(エレーヌ・フロラン)は離婚の傷が癒えない。互いに運命だと確信していたアントワーヌの心変わりを受け入れられず、違法ドラッグの影響から“小さなモンスター”の幻覚を見るようになる。

 キャロルが見る“モンスター”の正体とは?そして、全く接点のない過去のパリと現在のモントリオールの二つを結びつけるものとは一体――。


愛は、たった一回の人生で死なない


 その愛は、たった一回の人生で全うできるのか?ジャクリーヌがそれを教えてくれる。
 息子への愛は絶対だ。でも、それに相応しい環境が整っていないし、運命に見放される。息子の寿命は短い。その存在を生きがいにしている彼女にとって、一生はいかに短く感じるものだろう。

 眠ると夢を見るように、デジャブを感じるように、過去と未来の境界線を無自覚に越える不思議な時間がある。その追求をしようとも、数分後には夢もデジャブも忘れてしまい、現実世界を生きることになる。

 
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© 2011 Productions Café de Flore inc. / Monkey Pack Films

 それは人によれば“未練”の一言で片付けられるかもしれない。でも、この映画はそんな愛の追憶に優しい。それは、キャロルが違法ドラッグに手を染め、忘れられない愛の幻影を追う姿を神秘的に描いているからだ。
同時に、息子を愛するがゆえに不遇の一途を辿るジャクリーヌを救済すべく、スピリチュアルな展開が待ち受けている。

 愛は、たった一回の人生で死なない。そんな確信が映画全体に漂い、愛の喪失に苦しむキャロルと、愛の不遇に立ちすくむジャクリーヌの傷を癒しているのです。


     

一曲が全てを繋げる、新しい形の“音楽映画”


 DJはレコードの一枚ともう一枚を華麗に繋げる。間髪入れずに別の曲に移り変わり、観客をアジテーションする。この映画もアントワーヌのDJプレイのように、一つの時代ともう一つの時代を繋げて、全く違う愛の形を見境なく一つにする。

 カット数が多く、シーンの切り替わりが早い。一見、取り留めもない映像の羅列と思いきや、『カフェ・ド・フロール』の音楽が一本に美しく連ねている。めまぐるしい展開にヤラれる。それでも、音楽のリズムが作中のテンポを一定に保ち、観客を置いてけぼりにせずに盛り上げてくれる。

   
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© 2011 Productions Café de Flore inc. / Monkey Pack Films

 音楽と同様に、愛は形として存在しない。誰かが形に残そうとレコード、ディスク、データに移し替える。愛もまた、物語にして形を残している。それが本作だ。

 物語というものの存在意義を感じる。幻覚から逃れられないキャロルの絶叫と、窓ガラス越しに半透明に映る虚ろなジャクリーヌの目が交錯した時、“小さなモンスター”の正体が浮き彫りになる。

 果たして“運命”は本当に存在するのか?
本作はこの答えを探るべく、40年もの時を隔てる壮大な心の旅を描いているのです。


形のない愛をパッケージにした『カフェ・ド・フロール』


 あなたが“運命”と感じた人と別れた時、キャロルのような喪失感を延々と味わうなら、この映画が出した一つの提案を他人事とは思えないでしょう。

 形のない音楽がCDになるように、形のない愛が『カフェ・ド・フロール』にパッケージングされた奇跡をその目で確かめてください。



絶賛公開中!

監督・脚本:ジャン=マルク・ヴァレ
キャスト:ヴァネッサ・パラディ、ケヴィン・パラン、エレーヌ・フローラン、エヴリーヌ・ブロシェ
配給:ファインフィルムズ 原題:Café de Flore/2011年/カナダ・フランス合作映画/120分
URL:映画『カフェ・ド・フロール』公式サイト

Text/たけうちんぐ

ライタープロフィール

たけうちんぐ
ライター/映像作家

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