引退後のAV女優の人生を想像するということ

服部恵典 東大 院生 ポルノグラフィ 研究 杏美月のすべて 『杏美月のすべて』

キミが僕にくれた引退宣言のメールを読んで
キミがふともらした言葉を思い出しました
“今までは楽して生きようと思ってたけど…”
“これからは楽しく生きようと思っている”

ちょっとした覚悟と宣言のような言葉を
カメラのまわっていない時に、キミはハッキリと僕に言いました
あの時、真意を計り兼ねたあの言葉は
キミが大事なものをちゃんと手に入れた
大きな喜びと少しの不安が混じった言葉だったのかな?と今は思います
そして美月さん、そのヤサシイからだで
どうか沢山の幸せを胸一杯に!
(原文ママ、太字筆者)

 ああどうか幸せになってほしい、と今田とともに願って涙がこみ上げてきたとき、私は「AV女優」ではなく「人」としての杏美月を愛しているのだと思った。
AV女優に引退後の人生があり、それは我々に消費されることなく、知られることなく、過ぎていくということ。そのことが、AV女優が「モノ」ではなく「人」であることを実感させるのである。

 ただし、作品内で「風俗もあがります」と宣言していた杏美月は、現在もAV女優在籍の風俗店で働いており、Twitterアカウントも稼働している。
まあ、だから結局、我々は今もその生活を消費できるようになってしまったのだが、そこにも「人間味」を感じるではないか。

 さて、私にAVの倫理を迫ったエピソードの1つ目は、幸福に、心が豊かになる出来事であった。
しかしもう一方は、痛ましく、苦しい出来事であった。

紅音ほたるの死

 8月15日、元AV女優の紅音ほたるが亡くなった。喘息の急性発作による窒息死だという。

 AV女優時代は潮吹きパフォーマンスでその名を轟かせ、引退後はポールダンサー、DJとして活躍したほか、一般社団法人つけなアカンプロジェクトの立ち上げを行うなど性に関するアドバイザーでもあった。AMでインタビューを行ったこともある

 あまりに若く、あまりに突然の死だった。
それゆえか、その死の「真相」――窒息死に決まっているが――をめぐって、インターネットでは根も葉もない噂が飛び交った。
自殺、薬物、彼氏による殺人……。ワイドショー好みの、闇の深い死因の妄想である。
私はこの下品で俗な噂の数々に、怒りを覚えた。