ドライ・オーガズムの可能性
森岡とは真逆の立場から書かれた本がある。その名も『オトコのカラダはキモチいい』。
AMでもセックスについて語ってきたAV監督の二村ヒトシ、やおい・BLを専門に研究する社会学者の金田淳子、「アダルトグッズ評論家」の異名を持っていたという編集者・文筆家の岡田育、3名によるトークイベントが書籍化したものだ。
こんな愉快なメンバーで何を語っているのかというと、ずーっと男性のアナルと乳首の話ばっかりなのである。
とにかくこの本で重要なのは、ペニスにこだわらなくなると、「オトコのカラダはキモチいい」と気付き始めるということだ。
特にアナル、前立腺によるオーガズム。これらは射精を伴わないことがあり、その場合「ウェット・オーガズム」(射精)に対して「ドライ・オーガズム」と呼ばれる(なお射精する場合は、「突かれて出る」のでゲイ用語で俗に「トコロテン」とも呼ばれる)。
そして、射精を伴わないので何度でもイクことができる。
私も怖いもの見たさで、これらをテーマにしたAVである「オスガズム」シリーズなどを少し観たことがあるが、そこに映っているのはあまりの気持ちよさに男たちが泣き叫びながらオーガズムに達する姿である。
(ちなみに、『オスガズム 春原未来』では最終的に、素の姿をさらけ出した男たちを見て「人間好きだわ」と言いながら春原も泣く。素晴らしい怪作である。)
要するに、下品な言葉だが男たちが「メスイキ」する。女性のようにイクのだ。
こういうAVを観れば誰でも、「男は不感症である」なんて嘘じゃないかと思うだろう。
だが、森岡はこうしたドライ・オーガズムの存在を知っても、男は不感症であるという説を取り下げない。
なぜなら「性の快楽を高めることによって『男の不感症』の問題を解決するというのは、どことなく筋が違うように思えてならなかった」(『決定版 感じない男』204ページ)からだという。
「どことなく筋が違う」というのはどういうことなのか、詳しく説明されていないのでこちらもうまく批判しづらいが、勝手にその感覚を想像するならば、「裏技を使うなんてずるい!」という感じだろうか。
だが、男の“裏門”を刺激するのは裏技なのか?
我々の貧しい想像力がそう感じさせているだけで、正攻法である可能性はないのか?