女性向けAVの「運命の男」たち

東大院生のポルノグラフィ研究ノート 服部恵典 東大 院生 東大院生 ポルノグラフィ 研究 『ファインダーの向こうに君がいた』

前回、少し示唆しておいたが、SILK LABO初期作『ファインダーの向こうに君がいた』 が一つの例だ。
恋人との関係は良好ながらも一度もオーガズムに達したことがない主人公・鈴木麻美(工藤あさみ)は、ミステリアスなカメラマン・三神裕司(月野帯人)とひょんなことから関係を持ってしまう。

性行為シーンは4度あるが、1度目で麻美は、クリトリスを刺激するマスターベーションを三神に教えてもらっていわゆる「外イキ(クリトリスの刺激でのオーガズム)」を経験、2度目で三神にペニスを挿入され「中イキ(膣内の刺激でのオーガズム)」を経験し、3度目で初めて麻美が三神を責める、というようにステップアップしていく。

そして4度目の性行為で麻美は、自分がしてもらいたいことを伝え、自分の気持ちがいいところを探しながら、恋人・稲垣直人(鈴木一徹)と「良いセックス」ができるようになっている。
視聴者が映像に同調しつつ、麻美と一緒に性的に成長できるようなハウツー的ストーリーになっているわけだが、月野帯人演じる三神裕司こそ、藤本が言った「運命の男」そのものであろう。

興味深いのは、主人公の麻美が、自分を変えてくれた「運命の男」とは結ばれないということだ。
三神との浮気によって女を磨いた麻美は、恋人と幸せなセックスライフを送る。
一方の三神は最終シーンで荷物をまとめ海外に発つので、麻美の浮気がバレる心配はない。

もちろん、SILK LABO作品では、浮気した女性がみな本命の恋人を選ぶわけではない。
しかし、『繋いだてのひらから伝わること』『セカンド・ブレイク』『ラスト・グッバイ。』など、「運命の男」との浮気が恋人や夫との関係を改善させるパターンは多く見られる。

なお、AMで連載しているみぃみぃさんは、『ファインダーの向こうに君がいた』を紹介する回で、マンネリに悩む女性たちに「まずは自分のカラダをちゃんと知り、ちゃんと言葉で伝え、彼も自分もキモチ良くなって、初めて二人のセックス」であると伝えに来るこの男たちを「セックスの天使」と呼んでいる。
結ばれない男を「運命の男」と名指すのはどこかちぐはぐだから、たしかにより正しいネーミングかもしれない。

SILK LABOは、「女には少しぐらい火遊びが必要よ、でも一番愛しているのは恋人でしょう?」、そんなアンビバレントなメッセージを視聴者に送る。
だが、もう一歩踏み込んで注意深く見てみよう。
一方で、男の火遊びはどのように描かれているだろうか?