人の性癖を笑うな

 セックスの最中に馴染みのないリクエストをされることがたまにある。

 オムツを履いておもらしをしてほしい。寝たふりをしてほしい。洗ってない下着を履いてほしい。全身ツルツルになってほしい。思いっきり殴ってほしい。

 そんな唐突なリクエストたちにショックを受けることもあるが、もう焦ることはなくなった。
応えられるリクエストなら「YES」、応えられないリクエストなら「NO」、応えられるかどうかわからないなら「NO」と言えばいいだけである。
無理して相手の性癖に合わせる必要はない。

 一方で、「セックスの最中の変なリクエスト」は人気の高い話題でもある。
週末に友達とカフェで集まれば、奇抜な経験談をシェアすることに夢中になって笑いが絶えない。
「うそーっ!」「気持ち悪い!」「最悪!」そんな言葉たちが飛び交う中で、ノーマルなセックスとアブノーマルなセックスの間にある溝がどんどん深くなっていく。
そんな空間にいると、自分のセックスもノーマルでなければならないというプレッシャーを感じる。
ただの雑談にも関わらず、ちょっと違うとされるセックスにネガティブなレッテルを山ほど貼ってしまった。

 友達の間に限らず、そんなネガティブなレッテルは社会に溢れている。
例えば、アブノーマルとされるセックスはメディアの中で奇怪なものや危険なものとして描かれることが多い。
変質者や殺人鬼はなぜか決まってアブノーマルな性癖を持つ設定になっている。
この陳腐なステレオタイプは今でも繰り返し使われている。

 そんな描写を目にする度に、多様な性癖の居場所がどんどん狭くなっていくのを身を以て感じる。
そんなレッテルによって生じる圧力のせいで、自分の好きなセックスに素直になれない人ばかりが増えていく。