共同生活という愛の形

 もうすぐ80歳になるゲイの大先輩をインタビューするために、メモした住所を頼りに静かな住宅街を歩いていた。
朝から降っていた雪は雨に変わって、微かに春の匂いがする。目的の場所に辿り着くと、手入れの行き届いた前庭と赤レンガが綺麗な家が目に入った。
こんな可愛い家にいつか住んでみたい。そんなことを夢見つつも、トロントの不動産バブルという壁を思い出して元気のないノックをした。
玄関を開けたのは、銀色の髪の毛が似合うお洒落な人だった。ここまで年上のゲイの人と関わる機会自体が珍しくて、つい念入りに観察してしまう。自分が80歳まで生きたとして、こんな素敵な人になれるのだろうか。

 リビングルームに案内されて、生活感があるのに整理整頓されているインテリアにメロメロになった。
彼は独身だと聞いているが、こんなに大きな家に住んで寂しくないのだろうか。ソファーの上で昼寝している太ったネコと一緒なら、こうして静かな暮らしも悪くないのかもしれない。
そんなお節介なことばかり考えていても仕方がないので、さっそくインタビューを始めることにした。
ボイスレコーダーのスイッチを押して、最初の質問をしようと口を開けたら、後ろからドアが開く音が聞こえた。振り向くと50代くらいの男性がキッチンに入っていくのが見えた。

「その人は恋人でもセフレでもなくて家族の一員だよ」