恋愛をするのに余計な力はいらない

 彼氏と初デートに出かけた日から5年経った記念日にナイアガラ・オン・ザ・レイクへ小旅行に出かけた。トロントから車で数時間のところにある小さな町である。ワインの名所として知られているだけに、見渡す限りのぶどう畑が目の前に広がっている。自転車に乗れないくせに、サイクリングしながらワイナリー巡りがしたいという彼氏。運転できない二人にとって自転車は唯一の手段だ。幸いなことに自転車のレンタルショップには二人乗り用のタンデム自転車があった。これなら一緒に移動ができる。今まで触ったこともないタンデム自転車を眺めていると、ショップのスタッフが近付いてきた。ぎこちない様子を見てきっと心配になったのだろう。

「未経験だと難しいかもしれないよ」

 5年前、同じことを言われた。恋愛は難しいものだといろんな人が語っていた。お互いに恋愛未経験だった私たちはそんなでこぼこ道を歩もうとしていた。周りの失敗もたくさん目撃してきた。一歩踏み出す前からどうやって破局するのか思い描いていた。肩に力が入って、どんな悪い結末が待っていようと転ばないように構えていた。このタンデム自転車のハンドルを力一杯握りしめながら、同じ気持ちを抱いた。バランスが崩れて二人して倒れる光景ばかり脳裏を過った。まだペダルも踏んでいないのに汗びっしょりだ。

 タンデム自転車に跨って、後ろに彼氏が座ったのを確認すると、足で蹴ってペダルを漕いだ。いつもより重い上に、ハンドルもグラグラして、全く言うことを聞いてくれない。二人の呼吸が合わないと、勝手に動くペダルから足が滑ってしまう。力任せにコントロールしようとすればするほど、よりバランスを失った。レンタルショップの駐車場での試運転はとてもスムーズではなかった。これから5時間もこれに乗ってワイナリー巡りをするのに大丈夫なのか。その一部始終を見ていたレンタルショップのスタッフの表情はこわばっていた。