交際して初めてのクリスマス

そんなわけで今回のテーマは「夫婦のクリスマス」なのだが、我々夫婦にとってクリスマスは何かするイベント日ではない、せいぜいコンビニでチキンを買って食うぐらいだ。
ケーキも夫は甘い物が好きではないし、私も食器を使う菓子はあまり好みじゃないし、手づかみで食えないところも減点だ。

しかし、昔からそうだったわけではく、交際時は、クリスマスは何かカップルらしいことをしなければいけないという強迫観念があり、それが現在の「クリスマスは自分が楽しいと思えることをやるべき」という思想に繋がったと言える。

あれはおそらく交際して初めてのクリスマス、一番盛り上がるころだ。

その時ちょうど知り合いから「クリスマスジャズコンサートのチケットいらないか」と言われ、クリスマスにジャズって素敵すぎやしないかと思い、すぐにチケットをもらい、現夫を誘った。

その時の時点で夫は何故か微妙なツラをしていたのだが、その時から彼は「自分らしく過ごすこと」の大事さを知っていたのかもしれない。

その予感は的中し、ジャズコンサートと言っても映画館のような席があるわけではなく、立食パーティにジャズの生演奏がついているようなもので、周りは「ジャズ界隈のフレンズたち」で構成されていた。

いわば、コミュ障が、彼氏以外知り合いがいない、彼氏の友達たちのBBQに連れて来られ、彼氏はずっと友達と内輪話をしているような状態である。
それでジャズがわかればいいのだが当然わからない。

結局、30分ぐらいでどちらが言いだすわけでもなく会場を出た。
あの時の気まずい空気とテーブルに置いてあった、スカスカのフランスパンの味を生涯忘れることはない。

クリスマスをジャズコンサートで過ごすと言ったら素敵に聞こえるかもしれないが、世間一般の素敵を自分の素敵と勘違いすると逆にトラウマを作るし、そういう素敵の幻を羨んだり憎んだりするのも無意味ということである。

そこから10年以上の時を経て『八甲田山』という、自分の素敵に着地することが出来たが、できれば皆さんは早めに己の素敵を見つけてほしい。

八甲田山の中で「5連隊は5連隊らしく31連隊は31連隊らしく、万全の準備をして八甲田山に挑んで欲しい」というようなセリフがあるのだが、らしく出来なかった方はジャズに行った私以上のことになっている。

どうなったか気になる方はぜひ、見て確認してほしい、24日、冬の八甲田山で待っている。

Text/カレー沢薫

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