ガチャは教えてくれた「他人をバカにしてはいけない」と/カレー沢薫

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前回までのあらすじ。

土方さんの中の人にコメントをもらったのに、感極まりすぎて1週間見ることができなかった。

「これはもう、ダメだ」

とても20万近くかけて出した最推しの中の人直々に言葉をもらった人間の感想とは思えないが、そうとしか言いようがなかった。

そして「もう今世で見ることは不可能だ、来世で見よう」と、いつも通り来世の仕事を増やそうとしたところで、担当からメールが来た。

「POPが出来たので間違いがないか確認お願いします」

見ないわけにはいかなくなった。
私の名前や著書名が間違っているのは良い、むしろ良くあることだ。「カレーさわですか、ざわですか?」と聞かれても「知らねー」と答えるし、実際知らない。

だが相手方の表記に何か間違いがあったらまずい、確認は必須である。

意を決して見た。

見た、と言っても1時間ぐらい部屋をウロウロした後だが、とにかく、20万近くかけて出した「Fate/Grand Order」最推し「土方歳三」の声を出している人が、小生如きの本の為に書いてくれたコメントを見た。

☆☆☆☆

よってここからは、カレー沢が爆散したため、元カレー沢だった肉片「穏健派のカレー沢A」「過激派のカレー沢B」「甘いパン好きのカレー沢C」がお送りする。

本当は「天かすをごはんにかけるのが好きなカレー沢K´(ケーダッシュ)」まで爆散したのだが、中でもABCが大きめの肉片になったので、とりあえずこの三者に任せる。

しばらく、でかい肉片を小さい肉片が囲んで、エヴァ最終回のように「おめでとう」「おめでとう」と言い合っていたのだが、その内過激派のカレー沢Bがとんでもないことを言い出した。

「せっかくだから、もう2つも見ちまおうぜ」と。

実は星野さんはコメントを3つも出してくれたのである。その一つが担当らにより選ばれ、今POPになっている。

さすが核弾頭、とんでもないことを言いやがるぜ、と他の肉片たちは戦慄したが、どうせ爆発済みである。さらに爆発して「カレー沢019-アナル」みたいな保険番号クラスまで細かくなったって同じことではないか。

むしろ今この勢いで見るしかない、バトルシッパーも林先生も橋本真也も、全員が、今だ、時がきた、と言っている。

だが、残りの二つをみた瞬間、肉片たちは騒然となりカレー沢G~Lがショックで死んだ。

そして存命の肉片たちは一つ残らずこう思った。

「こっちの方がいい」

POPに採用されたコメントが悪かったわけではない。だが、個人的に選ばれなかったコメントの内の一つがダントツに良かったのだ。

こうしちゃいられねえ。
穏健派の肉片カレー沢Aはすぐさま担当に「表記等問題はありませんが、コメントは本の内容からしてもこちらの方がいいのでは、と思います。今更で申し訳ありませんが、ご検討お願いします」とメールを送った。

その瞬間、カレー沢Bの空中飛び膝蹴りがAに炸裂した。

「『ご検討ください』じゃねえぞ!『これにしろ』と言え!!」

確かに、もうこんなこと二度とない。自分の名前がカレー沢庵(実際あった誤植)になっていたどころの騒ぎではない。ここで引いたら冗談ではなく一生の悔いだ。

「しかし」

カレー沢Aは、膝蹴りによって深く陥没した眉間を押さえながら言った、AとてBと思いは同じである。

「あまりにも…遅すぎる…」

POPは完全に完成していた。あとは私の確認を取れば終わりの段階だろう、書籍の発売も迫っている、ここまで来て「これにしろ」と強く言うのはどうかという話だ。

「それに、今回のことは…全て小生たちが悪いじゃないか…」

カレー沢の肉片Aは、搾り出すように言って、他の肉片たちを見た。肉片たちは一様に目を逸らす。

そう、全部こっちが悪い。 自分でコメントを選びたかったなら、メールが来た瞬間、秒で確認し「しょ、小生はこれがいいでありますぅ…」と余命一ヶ月を切っている人間の顔で担当に伝えれば良かったのだ。

担当とて、作者の意向は無視するかもしれないが、もうすぐ死ぬ人間の言うことなら少しは耳を傾けるだろう。 なおかつ無視されたとしても、同条件で法廷に立てる。

それを返信どころか、見もしてなかったのだ。向こうが選んで当たり前である。
明らかに過失はこちら、敗因はこの私。

「私って本当にバカ」

自分は魔法少女ではなく、ただの中年だが心からそう思った。