『ゲス不倫』なるワードも、すっかりお茶の間に浸透した感がある昨今。
未だに、月一ペースで暴露される著名人の醜聞が、ワイドショ―を賑わしている。
そんな不貞の話題を目に耳にする度、ふと思い出すことがある。
自分の身内にも、不倫の当事者がいたことを。
父である。
あれは、三十年近く前の話、僕が中学生の頃。
芸能人でも国会議員でもない、一介の公務員だった父と職場の部下の間で繰り広げられた不倫劇。
発覚の発端は、ある日、帰宅した父が、
「今日は、皆に“そば飯”を食べさせてやろう!」
当時、流行り始めていた、神戸のご当地B級グルメ“そば飯”……焼き飯にソース焼きそばの麺を細かく刻んで混ぜ合わせ炒めたもの……を家族に振る舞ったことだった。
「うわー、美味しいねこれ!」
僕などは、『普段台所に立たない父の手料理』が醸し出すスペシャル感に気おされ、まんまとテンションを上げ頬張っていたものだが、
「……なんで?」
と口に入れる前に、執拗に尋ねていた母は何かを嗅ぎ取っていたようで、ほどなく不貞は明るみに出た。
女の勘は侮れない。
後々父が白状した処によると、件の“そば飯”は、浮気相手に教わったレシピだったとのこと。
おそらく、愛人のマンションで御馳走になったであろう料理を、シラ―っと母に食わせた彼の猟奇的な言動には背筋が凍る。
あるいは、そば飯の旨さが、
「絶対、家族に食べさせてやりたい!」
と罪悪感を上回り父を衝き動かしたのか……いや、そんなに大した味の食べ物でもない。
気掛かりなのは、今現在の父のことである。
既にあれから何十年も経過したが、これほどまでに連日、不倫不倫とワイドショ―に騒がれては、寝た子を起こすようなもの。
昔の過ちを母に蒸し返され、居心地の悪い日々を送っているに違いない。
自業自得だが。
- 1
- 2