40歳を過ぎたら生きるのがラクになった／59番目のマリアージュ

加齢の恩寵

父の自殺シリーズを書いた後、周りの人から「うちの弟がニート丸で」「うちの兄はモラハラ丸で」といろんな兄弟丸たちの悩みを聞いた。こういうのも人に話すとちょっとスッキリするものだ。

我が弟アホアホ丸は、今は友人たちの間で「43歳借金ワーキングプア丸」略して「ワープア丸」と呼ばれている。

あの後、ワープア丸とは連絡をとっていない。振り返ってみると、私は弟のことを気にしてたまに電話をかけていたが、弟から連絡がくるのは借金を頼む時だけだった。
それなのに仲良し姉弟だと信じていたなんて、まさに「ヒモに貢ぐ女性の気持ちが！　『言葉』でなく『心』で理解できたッ！！」である。

だが「忘れっぽい」というJJ力を発揮して、弟に対して怒りはもうない。親族が遺体で発見されがちな人生なので、それは勘弁してくれ、お前は勝手に達者に生きろと思っている。だがもう二度と金は貸さんぞ。

弟と縁を切った後、親戚のジジイに「お前は薄情な人間だ」と言われて金玉をカチ割ろうかと思ったが、べつに傷ついたりはしなかった。

それは、周りに理解してくれる人たちがいるからだ。女友達が「いやー私なら50万貸した時点で縁を切るわ」「私なら20万だわ」「私は貸す金がないわ」「アルは偉い！」と褒めてくれるので、私の心は守られている。

また、同じく父親が自殺した女友達と「可哀想だとは思うけど、今あの毒父が生きていたらと考えると、死んでくれてありがとうって気持ち」「わかる！」と本音を言い合ってスッキリしている。

母には友達がいなくて、入院した時も誰も見舞いに来なかった。
私もあんなマウンティング大好きVERY妻みたいな人とは友達になりたくないが、見栄っぱりでプライドの高い母は、他人に本音や弱音を話せなかったのだろう。

そう考えると、やっぱり可哀想だなと思う。私はJJ仲間と愉快なJJライフを送っているのに、母は孤独で寂しいJJのまま、ひとりぼっちで死んでしまったんだなと。娘の私は無理だったけど、誰かがそばにいてくれたらよかったのに。

そう、私はなんだか優しい気持ちになっているのだ。それは母だけじゃなく父に対してもそうである。
今の私は「いろいろ問題のある人間が必死でどうにか生きようとしたけど、うまくいかなかったんだな。残念だったけど、お疲れ様でした！」と爽やかな感想を抱いている。

それは二人とももう死んでいるからだ。死人は迷惑をかけてこないし、ウザいLINEとかも送ってこない。
それになにしろJJなので、嫌なこともだいぶ忘れているのだ。

やはり加齢の恩寵は大きい。いま現在、親にされたことを許せなくて苦しんでいる人は多いだろう。怒りや憎しみや悲しみに押しつぶされそうな時もあるだろう。でもそれもじょじょに薄れていって、いつか忘れられる時が来る。

毒親のことを許さなくていいし、許そうとして許せるものでもない。私の場合は気づいたら、許す許さないとか考えなくなっていた。
すると自然に、親のかわいらしい部分や楽しかった記憶を思い出すようになっていた。

そんな自分に「思い出を美化するのは老いの兆候か？」と戸惑いつつ、「父も母も死んじゃったし、まあいっか」と思っている。
1月の父の誕生日には、おしゃれ仏壇にケーキとビールをお供えして「私って優しいわ～」と自分を褒めた。
とはいえ骨壺は場所をとるので、春になったら遺骨を海に捨て、じゃなくて撒きに行きたいと思う。

Text／アルテイシア

次回は＜「もう離婚する！！」めったにしない夫婦ゲンカをして決意したこと＞です。
いつもパートナーと仲良しな様子をコラムでご紹介してくださるアルテイシアさんですが、最近「もう離婚する！！」と口走ってしまったそう。滅多にしないという夫婦喧嘩のきっかけとその対処法とは。

『40歳を過ぎたら生きるのがラクになったアルテイシアの熟女入門』2/7発売！
愉快なJJライフを綴りながら、男尊女卑や容姿差別をぶった斬り、「救われた」「年をとるのが楽しみになった」と連載中から話題を集めた爆笑エッセイ集。
解説はカレー沢薫先生です！