
長井短の「内緒にしといて」がスタートしたのは2018年冬のこと。当時私は24歳だった。翌年自分が結婚するなんてもちろん知らず、ようやく輪郭が見え始めた自分にヤキモキしていたあの頃。
初代担当編集Hさんから「コラムの連載をしてみませんか」とメールをもらった時、頼んだはずなのに届かない宅配便が、ようやく家に届いたみたいな気分だった。私はずっと、自分の気持ちを、人の顔色を窺わないまま言葉にしたかったのだ。あけすけな言葉で、妬み嫉みをぶちまけたかった。満を持しての初回コラム、そのタイトルは「ねえ、あの娘いつもちやほやされてるけどそんなに可愛い?」フルスロットルである。
高校の卒業祝いに買ってもらった、今より少し箱っぽいマックブックを炬燵に置いて、貼り付けた仮面と皮膚の間に溜まった皮脂や膿をプレパラートに乗せる。あまりの悍ましさにプチゲボ吐きながら観察して言葉にしてきた8年間。この場所がなかったら私はきっと、今より少しだけ性格が良くて、だけどずっと残酷な人間になっておりました。
私はなぜモテたかったのか
過去の記事を読み返してみると、なぜそんなにモテたかったんだと頭を抱えてしまう。同時に、モテを必要としなくなった自分に「偉くなったもんだな」って、唾吐く私もいたりする。今よりもっと、何者でもなかった頃。何者でもない自分が最も手軽に「何者か」になる方法が「モテ」だった。袖振り合ったその一瞬だけ誰かの特別になることは、表彰されるよりずっと簡単だからだ。報われなさを埋めるために、私はモテたかったんだと思う。
そしてきっと、同じ気持ちのたくさんの人々が、記事を読んで共感してくれたのでしょう。じゃあ今、さしてモテたいと思わない私は報われたのかって? ある意味イエスかもしれない。だけどそもそも、今の私には報い報われなどないに等しいのである。かなり色んなことが、だいぶどうでもいい。これは超絶ポジティブな意味で言ってます。
正直、めちゃくちゃ自分のことが好きです…。本当は昔から、かなり俺は俺を気に入ってたけど、最近の俺は比じゃない。「今日何をするか」を考える時の思考の流れが「何してる俺がいいかな?」って動線になるくらいの自己愛。私は近年、人生って自分の二次創作なんじゃないかと感じ始めている。頭キテるっしょ〜? 一時期は「ネガティブモデル」などと後ろ指刺された私がなんでこんな異常自己愛人間になったかって、それはいっぱい自分の醜い面を見つめたからだ。
「内緒にしといて」は、95%が誰かの悪口で出来ていた。その「誰か」にはもちろん自身も含まれる。嫌いな自分と嫌いな他者をごった煮にして、許せない世界観を火炙りにし続けた結果、私の世界は今かなり見晴らしが良いのである。遠くにいるあなたにも手を振れるくらい。
全ては視点次第で面白がれる
「おーい、こっちだよ! こっちはそっちより、少しだけ風が気持ちいいよ!」って、あなたにいつまでも手を振りたかった。
だから、AMがなくなってしまうことはとても悲しいし不安だ。私自身、AMに寄稿された様々な先輩ビッチたちの言葉に何度も救われたから。誰かの言葉を読むために三十秒の広告を見る刑に処されるディストピアで、AMはいつも風通しの良い、ビッチの溜まり場だった。生き方なんて最後になんないと見えないんだから、今は好きなように身体動かそうって背中を押してくれたこの場所がなくなったら、眠れない時どこ行けばいいんだろう。うち来る?って言ってよAMちゃん!
ごねたって仕方ないのである。AMなき世界でうちらはこれから、より逞しく、そして気高く生きていくしかない。生きやすくも生きにくくもなったこの世で、爽やかに怒ったり、しなやかに泣いたりして、健気に自分の二次創作を続けようではありませんか! 困ったときはカメラを引いて大俯瞰。全てのことは視点次第で面白がれることを、私たちって本当はずっと知っている。ファミレスでダチに語れば、どんな悲劇も喜劇たるのだ。
汚いところを愛せたら
そんなふうに考えられるようになったのは、ひとえにこの場所を与えてくれたAMちゃんと、読んでくれた読者のみんなのおかげです。8年間本当にありがとうございました。しかも、おかげさまで本にも変身できたのだ。
「本を作ってみたい」は、寝てみる方の夢くらい無意識の夢だった。そしてたぶん「小説を書いてみたい」も、同じくらい無意識の夢だった。どちらもAMちゃんのおかげで、叶ったのである。自分に何ができて何ができないかって、やってみないとわからない。思わぬところに、隠された自分の夢が眠っていたりする。それは、野心から最も遠いところにあったりする。
だから皆さん。たまには野心捨てようね。向上心も上昇志向も、心と体に良い食べ物も運動も、時々全部捨てちゃおう。今ここにある、醜くて見るに耐えない自分自身だけを味わおう。そこにこそ、自分が自分たる所以がきっとある。汚いところを愛せたら、綺麗なところを愛すのなんて簡単なのだ。
あなたとあなたの大切な人、そして世界が、あなたの醜さ丸ごと愛せますように。
Text/長井短