ネットのある時代に

東京カレンダー2018年1月号の画像

 私はブランド好きで見栄っ張りでミーハーな母が嫌いだった。他人を見下して悪口を言う母を「いい年して空っぽだな」と冷めた目で見ていた。

 でも今となれば、母の気持ちもわかる気がする。

 母も心の底では「若さと美しさを失った自分は空っぽだ」と気づいていたんじゃないか。そんな自分を肯定するために、他人を否定して攻撃せずにいられなかったんじゃないか。

 それに時代も大きかったと思う。当時は「男は外で働き、女は家を守る」という性別役割分業意識が今よりも強かった。「男は稼いでナンボ」「浮気は男の甲斐性」という価値観も強かった。父親の多くは家庭に無関心で、ワンオペ育児が当たり前、女性の経済的自立は困難だった。

 そんな時代に、母のような女性はいっぱいいたのだろう。

 もっと遅く生まれていれば、母も違う人生を選べたのかもしれない…と書きつつ、港区妻アカウントとかになってた気もすごくする。

 それでもネットのある時代に生まれていれば、ツイッターで承認欲求を満たしたり、マウンティングで憂さ晴らししたりして、ガス抜きできたかもしれない。

 もしくは「お金はなくても豊かに暮らす」とセレブからロハスに転向できたかもしれない。まあスピ系にドハマりしそうな気もするが。

 それでもアルコールや自傷にハマり、拒食症の末にガリガリに痩せて死ぬよりはずっとよかった。

 なんだかんだいって、私は母に救われてほしかったのだ。母のことは嫌いだったが、あんなふうに死んでほしくなかった。

 そう思えるのは、母が死んだからだ。

 母がこの世から消えたことで、私は本当の意味で解放された。過去の怒りや恨みも薄れて成仏していった。

 仏様になった母は二度と私を傷つけないから、生きている母よりも愛せる。8年たった今では、楽しかった記憶や母の良いところも思い出すようになった。

 母とよく阪急電車に乗って、西宮北口の駅でうどんを食べた。うどんを食べる母の横顔は美しかった。

 もし来世があるなら、今度はうどんをいっぱい食べて長生きしてほしいと思う。

※2018年1月23日に「TOFUFU」で掲載しました。

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