初めての妊娠。初めての癌

 もともと自分の健康に無頓着だったわけではありません。向井亜紀のドキュメンタリードラマを見て「子宮頸癌」という病気があることを知り、気の小ささとフリーランスである不安から、定期的に婦人科検診を受けていました。だからごく初期の段階で、自分の子宮に軽度の異形細胞があることは把握していたのですが、検査の度に「まだ治療するほどではないから様子見ましょう」との診断で、ビクビクしながらも数年間やり過ごしていたのです。

 しかし、20代に通っていた都立病院は待ち時間がとても長く、検査のために半日近く潰れる、なんてこともしばしば。30代になり仕事が多忙を極めた私は、婦人科検診を「めんどい」と思いはじめ、もっと気軽に通えて雰囲気もアーバンな、駅近のレディースクリニックに浮気してしまうのです。そこで結婚前に大枚はたいて一通り「ブライダルチェック」をしてもらったところ、なんと異形細胞が消え、結果はオールクリア。結婚が決まった喜びも相まって、「うひょ! 癌の元が消えた!」と人生で一番ハシャいでしまっていた時期でした。

 お察しの通り、浮かれていると足元をすくわれるのが人の常。一度異形化した細胞が元に戻るなんて、いま考えるとそんなワケあるか! て話なのですが、新婚生活にうつつを抜かし冷静さを欠いていた私は、それから1年以上も検診をサボッてしまっていたのです。

 そして、妊娠の確定に大喜びしたのもつかの間、二度目の妊婦検診で癌が発覚。聞けば、お腹の赤ちゃんが大きくなる前に手術して切ってしまったほうが良い、とのこと。ちょ…、私のイケてるマタニティライフどこいったよ。スイミング、ヨガどころじゃねーわ。妊婦から、癌患者になっちゃったよ!

 担当医の説明によると、妊娠初期のオペは流産の危険を伴うものの、子宮が膨らむと癌も一緒に大きくなるので出産時まで待つと子宮が全摘出になる可能性がある、とのことでした。え。安定期に入ってからじゃ、ダメなの…? ていうか、この子さえ無事に産まれるなら、帝王切開でついでに子宮全摘でも私は全然いいんだけど…?

 そんな私の思いとはうらはらに、過保護すぎるうちの両親は「子供なんてまた作ればいいじゃん、ここは母体優先よ!」ってテンション。まぁ、そうなるよね。うちの夫にいたっては、「手術は成功、赤ちゃんも無事、癌も直るに決まってる!」って感じで、一切慌てるそぶりなくドッシリとしておりました。それは彼なりの、いま自分が慌てたら私のメンがヘラってしまう、と見据えての演技だったのだけど。なんかもう私もそれに乗っかるしかないような気がして、腹をくくって即入院、手術という流れに。

 生まれてはじめての妊娠。生まれてはじめての手術。しかも局部麻酔による癌の切除、って、パニック障害持ちの私には超ハードモードな経験でしたけども(マジで手術中は死ぬかと思った…)。でも、もしあのとき妊娠していなければ、子宮の細胞が癌化していることも気付かず、ダラ嫁の私のことだから検診をサボりまくって放置し、手遅れになっていたかもしれない。

 息子が私の命を救ってくれたのもしれない。この恩、一生かかっても息子に返せるのかなー、といつも心もとないのですが。とりあえず早死にしないように健康に気を付けて、体を鍛え、夏までには元の体重に戻さないと!(そこ?)

 仕事が忙しかったり、趣味とかデートとか、楽しいことがいっぱいでつい「めんどい」ことって後回しにしちゃうと思います。でも、その「めんどい」が自分の命を奪ってしまうこともあるのですよ。ダラ嫁が人様に説教できる立場じゃないですが、子供欲しい人も欲しくない人も、自分のために検診行きましょう!

Text/ティナ助