私は無職に飽きる兆しがないが夫は「休みに飽きる」と言う人だった/カレー沢薫

今回のテーマは夫婦と「副業」である。

そもそも私の仕事は副業の寄せ集めみたいなものであり、エビフライと思ったらパン粉の集合体だった、みたいな働き方をしている。

しかし現在、本業のほかに副業を持った方が良いという風潮になりつつあり、国もそれを推奨している。

副業を持つことにより、単純に収入が増えるだけでなく、収入源を複数確保することで、例え本業であるエビが突然消えても、パン粉たちが「しばらく俺たちだけでエビフライの形をとっとくから、その間に新しいエビを探せ!」と急場をしのぎ、即破綻という事態を防ぎやすくなる。

これこそが何が起こるかわからない乱世を生き抜くための最新の生き方というわけだ。

などといい風には言っているが、本業だけで地獄のように疲れている人の方が多い中、国が「副業で深夜土日も働けるドン!」とさらなる労働を勧めてくるというのは異常事態である。

そもそも倒れた人を救うのは国の役目である「いざという時に備えて副業をしろ」というのは、事故で負傷した人に「こんな時のために受け身をマスターしてない方が悪い」というようなものだ。

だが、副業しなければやっていけないという状況は社会の病理だが、本業だけでも食ってはいけるが余暇にやることもないから副業でもしたい、という人もいるかもしれない。

一見前向きに聞こえるが「仕事の休みに仕事しかやることが思いつかない」というのも相当な病(ビョウ)のような気もする。

しかし恐ろしいことに、この世には「休みに飽きる」と真顔で言う人が結構いるのだ。

「美人は三日で飽きるがブスは三日で慣れる」という、今では口に出しただけで怒られそうな格言がある。
誰が言い出したのかは知らないが、多分ブス、もしくは嫁がブスの人が生み出した言葉だろう、しかし、ブスすぎて後世に残る格言をドロップしたというなら、才能のあるブスなのも確かだ。
少なくとも美人側の人間が言い出したことではないだろうと思っていたが、もしかしたら「美人と言われすぎて自分が美人であることに3日で飽きた」という顔面だけではなくハートまで強い美人が言った可能性もなくはない。

だがそうだとしたら「ブスはブスという滅びの呪文に三日でノーダメになった」という意味にもなる。
つまり、美人もブスも強靭であり、そのどちらでもないモブ面どもは些細な言葉にイチイチ傷ついて死ぬしかない、という持たざる者へ諦めを促す言葉なのではないか。

だが実際は、ただ上手いことを言ってバズりたくなったブスでも美人でもない当事者外が適当に言った言葉、というのが真相なのかもしれない。

それと同じように「無職も最初は良いが、すぐに飽きて働きたくなる」という人は無職当事者ではない、少なくとも、心が真の無職ではない。