寝ていていいと言われても
えっ! 寝ていていい!? ぶっちゃけ眠いし、ありがたい……ワケはありません。だってこれじゃあ、わたしはただの穴扱い。いや、“反応しない、人形のような女”〝意識のない女”を抱くという倒錯に興奮する気持ちもわからないことはない。が、人形のようであったり、意識のないふりを強いられるこちらの立場になってみてはくれないか。
むしろ「無反応でいなくちゃいけないのに、無理! 気持ちよすぎて声が出ちゃうよー!」ってな対応を期待されているのかとも考えました。けれども、眠いところを起こされて愛撫もなしに突っ込まれ、気持ちよくなるわけもない。それでも、どうにか気持ちよくなるためのマインドを作ろうかと、試行錯誤を始めたつかの間、彼はさっさと果ててしまうではないですか。
休日の朝であれば、ここから二回戦に移行するなり、後戯で満足させてもらうなりと、リカバリーもできるけれど、出勤時刻が迫っている彼といえば、そそくさと起き上がり、「やべー、遅れる!」と、わたしのクレームを聞く間もなく、家を出ていってしまったのです。
恋人に“穴”にされたその一件は、わたしの心の中に、わりと長い間巣食うことになり、くすぶり続けていたのですが、その件についてのダメ出しを、別れ話の際にしなかったのは、これから先、わたしの人生に関わってくることのない人と対話をする気がなかったからで、だからこそ彼は悔い改めたり、反省する機会を失ってしまった。恋人だった女を傷つけたことを知らぬまま、生きていくというのもまた、酷な話ではあります。
Text/大泉りか
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