失恋を忘れるには?突然ホテルに呼び出してきた元恋人の話/中川淳一郎

忘れられない女性の画像

今回のテーマ「忘れられない恋を忘れたい」
好きだけどもうこれ以上どうにもならないとき、他の人を好きになったほうがいいと分かっているとき、どうやって気持ちを切り替えていけばよいでしょうか?

「ちょっといいかも」な男を誘ってみる

「忘れられない恋を忘れたい」というタイプの人は「はー、終わった終わった、さーてと、次の男見つけっか! 忙しい忙しい。毎日アプリで『いいね』つけまくるわよ~」なんてタイプではなく、辛いことがあったら落ち込み、その後うじうじとしたり、時には泣いてしまうような繊細な方でしょう。いや、実際は「忘れたい恋を忘れやすい」タイプでもあるのです。だから「忘れられない」タイプの人が無理に「忘れたい」と考えるのは難しいもの。

忘れられない恋というのは、斉藤由貴の『悲しみよこんにちは』『めぞん一刻』の主題歌)ではありませんが、悲しい時間が終われば夢への扉が開くわけです。あと、悲しみが来てもそれは友達のようなものになるものです。

忘れられないということは、その時の時間が素晴らしかったことを意味するのでしょうが、無理して忘れる必要はないと私は思います。楽しかった時間だけをまずは強引に思い出し、イヤだったエピソードは忘れるようにする。あとは時間が解決し、「あぁ、あの人との時間は良かったな」と思えるようになります。となると「忘れたい」という気持ちはなくなり、「思わず心がほっこりする、忘れられない、良い恋愛」というものに変化します。

結局多くのことは時間が解決します。大切な人を若くして自殺や事故で失った場合、数年間はその心が癒えるまでは時間がかかりますし、その後はその人と過ごした良い思い出や愛おしい発言ばかりが残るようになります。

恋愛については、人の死よりは圧倒的に軽いものですから、「数年」レベルではなく、もっと短期間のものです。ですから、前述のような考え方をし、あとは次の男との出会いを待てば良い。

当連載で再三申し上げてきましたが、男は女性から誘われることを殊の外喜びます。まだ「忘れられない」状態であっても、積極的に「ちょっといいかも」な男を誘い、食事でも酒でも一緒に行ってみる。次の恋が始まったところで、『悲しみよこんにちは』ではありませんが、「キラキラとした思い出」に変わり、今度は「忘れられない、良い恋愛」か「忘れる必要がない恋」に昇華すると私は考えています。

突然ホテルに呼び出してきた元恋人

今でも謎だった元恋人の行動があります。20代前半から中盤まで付き合った彼女とは、私があまりにも忙しすぎたことと、会ったときも日本が初出場した1998年のサッカーW杯ばかり見ていて呆れ果ててフラれました。私にとっては忘れがたい恋ではあったですし、その後手紙を書くなどし、許してほしい、復縁してほしい、といったことは伝えました。

それから数年後、突然連絡が来ました。新宿の高級ホテルに泊まっているから来ないか? というものでした。この段階では彼女への未練はなく、すでに楽しかった時間ばかりが思い出される状態になっていました。

しかし、ホテルへの誘い、まさかの復縁か? なんて思うとともに、かつてのエロ行為を思い出し、無駄な期待をしながらそのホテルの彼女の部屋へ。20時から24時ぐらいまで喋っていたのですが、常にソファーで向かい合ってビールを飲みながら喋るのみ。すると24時に「私明日早いのでそろそろ寝なくちゃいけないんだ」と言います。

このとき、単に懐かしくなったから共通の話題がある人間として私が暇つぶしの相手として選ばれたことを理解しました。私は「楽しかったよ、ありがとう」とだけ言い、ホテルの部屋を出てそのまま新宿の安飲み屋で一人ビールを飲み続けました。

それから数か月後、彼女が結婚したことを聞きました。恐らく私が「忘れられない恋を忘れられない」状態だと予想していたのかもしれません。何が起こってもおかしくないホテルの部屋に2人きりでいて何もやらない。これにより彼女は私の恋心に引導を渡したのでしょう。

いや、完全に私は吹っ切れてはいたものの、ホテルに誘われたということで、またメラメラと恋心は少し出てきました。しかし、この日、これは完全に木端微塵にされた。「忘れたい」というのは実は「忘れる」状態になることではなく、「すっかり諦める」ことでもあります。