だってわたしは、何もできなくないからだ

突然だが振られた。その人は恋人ではなかったし、何か色っぽいこともなかったが、ここ2年ほど人生という道の上に立つために必要な「杖」のような存在だった。その人がいなくなってしまった。

動かない頭でキーボードを叩く。人生は意味などない! どれだけ上手に脚本を書けても、公演で黒字をだしても、オーディションに受かっても、これ以上ないって芝居ができても、好きな人には好かれない。だからそういう意味では、何もかもが無意味だ。だけど、好かれるために生まれてきたわけじゃない。……わかるよね。

ようやく諦めがついてきた。わたしは、何にもできないお姫さまにはなれない。だってわたしは、何にもできなくないからだ。自分で演劇の脚本を書き、自分で企画し、自分で資金を調達し、上演している。1DKで軽量鉄骨の小さな部屋の家賃を払う、26歳だからだ。
振られた記念に許してやる。泣いてもいい。24時間いつだって・どこででも、泣き出したい時に泣いて良い。だってヒロインとは物語の中で一番もがく存在だから。

自由と孤独の風が吹いている。いよいよ二本の足で大地を踏みしめ、歩いて行かなくてはいけなくなった。
恋の終わりに物語の始まりが見える。小さな悲しみや苦しみは散りばめられたガラス片だ。踏めば血が出る。けれどキラキラと反射して、わたしと君の顔を照らす。
輝く光、君はヒロイン。

Text/葭本未織