こんなイケメンゾンビ、見たことありません!

ウォーム・ボディーズ ジョナサン・レヴィン ニコラス・ホルト テリーサ・パーマー ジョン・マルコヴィッチ アスミック・エース ゾンビ ラブコメディ たけうちんぐ 2013 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.

 ゾンビは怖いでしょう。でも大丈夫。このゾンビはだいぶイケメンです。
危険に晒される女の子を何度も助けてかっこいいので安心です。
でも、やっぱりゾンビです。人を食べます。一応怖いです。
……どっちだよ!

 この映画は従来のゾンビ映画の概念を覆している。
まず、ゾンビがナレーションをしている。しかも葛藤をするのです。

「自分はなぜ人と接することができない?」
「うわ、アイツ、自分の皮と肉食ってる。ああいう風にはなりたくない……」
「この先、俺には何が待っているんだろう」

 その葛藤は割と人間の若者と変わりない(皮と肉の部分以外)。かつて人間だったからこそ、主人公・Rは自分がゾンビであることを嘆いている。心の中でもがき苦しんでいる。それも、恋をしてしまったから余計に。

 好きな子を前にして「あー」とか「うー」しか声が出ないし、自分の名前さえ忘れている。
彼のやるせなさは、なんだか『ロミオとジュリエット』で描かれる葛藤に近い。身分の違いで恋愛ができない。
二人はゾンビとニンゲンだからこそ引き裂かれ、離れ離れになってしまう。

 失恋に落ち込む彼の姿になぜかキュンとしてしまったなら、ジュリーの気持ちが分かるはず。彼女もまた、ニンゲンの心を完全に忘れ切っていないRに惹かれていく様が切ないのです。って、ゾンビ映画なのに何なんでしょう、この感覚は。Rが自分の気持ちを言葉で伝えることができず、レコードに針を通して音楽で伝えようとするシーンはゾンビ映画とは思えません。

ただのラブコメじゃない。これは人類の成長のお話

ウォーム・ボディーズ ジョナサン・レヴィン ニコラス・ホルト テリーサ・パーマー ジョン・マルコヴィッチ アスミック・エース ゾンビ ラブコメディ たけうちんぐ 2013 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.

 ジェリーに恋心を抱くにつれ、Rは自分の心が温まっていくことに気付く。そして彼の姿を見た他のゾンビたちにも、異変が起きていく。その変化に気付いた“ゾンビのなれの果て”の姿であるガイコツたちが、ニンゲンの心を取り戻しつつあるゾンビたちに襲い掛かる後半はスリル満点です。

 Rの悶々とした語りは、どこか生活に疲れ、未来の展望がない若者の心情にも思える。そして行く宛てもなくフラフラと彷徨い続けるゾンビたちが、現代に生きる人々の姿と被る。彼らが誰かに恋をして、もしくは誰かの恋する姿を見たことで、ニンゲンであった過去の記憶が呼び起こされる。
その劇的な様は、ホラー映画の皮を被った人間ドラマのワンシーンに見えるのです。

 これは、人類の成長のお話なのかもしれない。
恋をすることで個人が生きる希望を得て、さらに人類全体の希望すら見出してしまう、お話。

「ゾンビなら問答無用に撃ち殺す」と決め付けていた人間たちの心も変わっていく。
ゾンビ=悪ではない。優しい心を持ったゾンビもいる。これは今までのゾンビ映画では描かれていなかった。一人一人が相手の気持ちを想像することで、新しい時代を築く。そんな人種差別にも通じるテーマが本作にはある。
ゾンビの街とニンゲンの街を隔てる巨大な壁は、ベルリンの壁にも思えてしまう。
最終的には壮大なスケールの愛が描かれていき、予想外にポジティブな展開がラブコメを盛り上げるのです。