言葉を一切排除した、過去の『楽園』とは
「第二部」の『楽園』で描かれる過去には、セリフが一切無い。まるでサイレント映画のようだけど、完全に静寂が包むわけではない。
「現在」のベントゥーラのナレーションが物語を運ばせて、虫の鳴き声、水が滴り落ちる音、木々のざわめきなどの自然の音が響いている。
まるで言葉が不必要とでも言わんばかりに、画だけで物語はすすみ、すべてはアウロラとベントゥーラの行動で示されるのです。
記憶はいつだって、曖昧の中に現在の熱情を見つけ出す。
これはアウロラの回想と見せかけて、ベントゥーラの記憶を辿る映像なのだから。
ただ、二人が書き綴る手紙は互いのセリフがナレーションとしてひたすら流れ、アフリカの広大な大地を背景に優しく語り掛けてくる。
「彼女といる時、未来など曖昧で無意味に思えた」
彼が語る未来は、「第一部」で描かれたように『楽園』を喪失してしまっている。
彼の言う通り、未来はぼんやりと“生”を失っていく。
激しく愛し合って“生”を燃やし続ける過去こそが、説明過多で物に溢れた現代よりも情報量が詰まっている。
その説得力を「第二部」で体感したとき、観客は本当の意味の『楽園』を知ってしまう。
『楽園』って一体何なんだろう。どこにあるんだろう
死ぬまでずっと、追い求め続けるかもしれない。『楽園』に着地できるかどうかも分からない。
人生がハッピーエンドとは限らない。どれほど楽しく生きても最期は一人。
幸せな最後は映画の中だけに存在し、幸せな最期はありえないのだ。
この映画はそんな現実を叩き付けるとともに、「第二部」に生きる私たちの、今すぐ傍にある愛の大切さを思いしらせてくれる。
暑い季節の到来とともに、ポルトガルからのこの熱波を肌で感じてもらいたい。
その波で味わうのは纏わり付く鬱陶しい汗ではなく、“手に汗握る”情熱的なラブストーリーなのです。
7月13日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
監督・脚本:ミゲル・ゴメス
キャスト:テレサ・マドゥルガ、ラウラ・ソヴェラル、アナ・モレイラ、カルロト・コッタ
配給:エスパース・サロウ
原題:Tabu/2012年/ポルトガル・ドイツ・ブラジル・フランス合作映画/118分
URL:映画『熱波』公式サイト
Text/たけうちんぐ