子どもの頃はもっと素直だった。
好きな人に何も考えずに「好き!」と言えた。手を繋げた。「結婚しよう!」なんて無邪気に言ったこともあるかもしれない。この映画のマコとうーやんみたいに。
でも、2人は30代。世間から“知的障害者”と呼ばれる2人は、他の30代には到底出来ない純粋な愛し合い方をしていた。それがちょっぴり羨ましく思えたし、憧れた。
だからこそ、マコの残酷な死には言葉を無くす。それは、映画の冒頭でわかる事実ではあるが、頭痛がするくらい涙が溢れる。割れたビンの破片が飛び散るように、幸せが大きな音を立てて崩れていく。
愛情がこれほどまで辛く、儚いものとは。
マコとの結婚を待ち望むうーやんの姿は、スクリーンが涙で滲んで直視できない。 映画やドラマなどで数々のヒット作を生み出してきた堤幸彦監督が、演劇集団・東京セレソンデラックスの伝説の舞台を映画化。脚本を手がけたのはこの劇団の主宰・宅間孝行。彼は本作でうーやん役としても出演し、映画初主演となるマコ役・貫地谷しほりとピュアな恋愛模様を繰り広げます。
マコの父役には、俳優のみならず映画監督としても広く活躍する竹中直人。彼らが過ごす『ひまわり荘』には田畑智子、橋本愛、岡本麗、麻生祐未といった豪華な女優陣が出入りし、個性豊かなキャラクターと絶妙なセリフがたまらない。
アットホームで温かい人間模様に笑い、そして涙してしまいます。
ストーリー
漫画家の愛情いっぽん(竹中直人)は娘のマコ(貫地谷しほり)を連れて知的障害者の自立支援ホーム『ひまわり荘』にやってくる。心が7歳のままのマコはピュアでおませ。そして何よりもいっぽんのことが大好き。彼女はある事件をきっかけに父以外の男性を怖れて生きてきたが、入居者のうーやん(宅間孝行)だけには心を開く。
個性豊かな人々に楽しい日々を送っていたのも束の間、いっぽんを苦しめる病魔と現実社会の暗い闇が2人に重くのしかかる。
互いに惹かれ合い、「クリスマスに結婚しようね」と約束していたうーやんとマコ。クリスマスになり、『ひまわり荘』には馴染みの人々が集まってくるが、マコはやって来ない。
ある悲しい事件が起きてしまい、彼女は死んでしまったのだ――。
“愛”なんて便利な言葉はこの映画に通用しない
1つの家の中でたくさんの人の想いが交錯する。それぞれが一気に繋がりあう光景は、まるで演劇の舞台を観ているかのよう。
それもそのはず。5台ものカメラが一斉に登場人物たちを捉え、ひまわり荘の生々しい人間模様がノーカットならではの臨場感で映し出されているから。それは当然爆笑を呼ぶし、涙も誘う。
うーやんが愛情いっぽんを妹の結婚相手と勘違いし、厳しく詰め寄るシーンには笑いが止まらない。ここにはいかにうーやんが自分1人では生きていけず、妹を頼っているのか。聞いた話をそのまま受け取ってしまう、少年のように純粋な心を持っているかが顕著に表れています。
ひまわり荘での幸せは続くのか。いっぽんは新作マンガを描けるのか。そして、マコはどうして死んでしまったのか。
そのすべてが重なり、畳み掛けてくるように押し寄せる終盤。
その悲しみにもはや太刀打ちできない。いっぽんの娘への想いがヒリヒリと痛む。
エンドロールで流れる『グッド・バイ・マイ・ラブ』がマコとうーやんを歌い表すかのようで、その純粋な恋心にとめどなく涙が零れ落ちる。
いっぽんの決断に納得できない人もいるだろう。同時にそれは、この親子に悲劇をもたらした社会へ首を傾げることにも繋がる。
愛ゆえの結末に言葉を失い、映画を観た帰り道は途方に暮れてしまう。
いや、違う。“愛”なんて便利な言葉では簡単に片付けられない。これは不便な生き方を強いられた親子の、深くて辛い物語なのだから。
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