今だからこそ描けるラブストーリーは、今観ないといけない。アカデミー賞最有力候補『シェイプ・オブ・ウォーター』

「シェイブ・オブ・ウォーター」宣伝画像① 2017 Twentieth Century Fox

 人種を越えた愛、国境を超えた愛は今まで多くの作品で描かれてきた。
それどころではない。これは種族を越えた愛だ。人間の女性と、水の中で暮らす不思議な生き物のラブストーリーである。一見ブッ飛んでいるように思えるが、あまりのピュアな物語に観終わった後は数時間前の印象を吹っ飛ばす。

 アカデミー賞最有力候補であることが納得できる。あらゆるスキャンダルが飛び交う昨今、類を見ないダントツの“許されない愛”を貫き通す二人の物語は、今のハリウッドが絶対に無視をしてはいけないものだ。

 『パンズ・ラビリンス』『パシフィック・リム』など独自の世界観を世に知らしめてきたギレルモ・デル・トロ監督最新作。ホラーからファンタジーからアクションまで、幅広い表現で魅了し続ける彼が今回挑んだのは、その全ての要素が含まれたラブストーリー。
『ブルー・ジャスミン』でアカデミー賞にノミネートされたサリー・ホーキンスが主人公・イライザ役を務める。その相手となる不思議な生き物をダグ・ジョーンズ、二人を追い詰めるエリート軍人をマイケル・シャノン、『ドリーム』の好演が記憶に新しいオクタヴィア・スペンサーがイライザの友人を演じ、デル・トロ監督の集大成と呼べる彼自身の最高傑作に魅力的なキャストが集まった。

彼は“孤独”の中の救世主

「シェイブ・オブ・ウォーター」宣伝画像② 2017 Twentieth Century Fox

 水の中で生きる水生の生き物、いわば半魚人と愛し合うなんてブッ飛んでる!
 ……と、第一印象がファンタジーであったのに、観終わってみるとまるで古典名作のように何十年の昔から語り継がれてきたラブストーリーに触れたような、深い哀愁に包まれてしまう。

 種族を超えた愛でも『美女と野獣』のようなロマンスではなく、不思議な生き物だけでなくヒロインも社会から隅に追いやられている。イライザは声を出せない。障害者だけでなく、黒人、ゲイといった米ソ冷戦時代のマイノリティの人々に光が照らされ、重いテーマを孕みながらコメディ色が強く、ユーモア溢れる描写に驚く。何度も笑いを誘うシーンが飛び込んでくる。

 イライザの“孤独”が基盤となっていて、一人で暮らす女性の日常が丁寧に切り取られている。心の拠り所は隣の家に住む売れない老人画家・ジャイルズ。二人とも身寄りもなく、互いの孤独を埋め合う中で突如現れた不思議な生き物は、イライザの暗闇に火を灯す救世主のように描かれている。
 
 多くのファンタジー作品が触れようとしない、「半魚人とどうやってアレするの?」――そんな下世話な疑問も、わざわざ解決してくれる。しかもゼルダとのガールズトークで。一見どうでもいいように思えるが、不思議な生き物を“不思議”で終わらせないよう避けずに描いたデル・トロ監督は信用できる。