恋人と元彼の間で揺れる・・・ありふれた恋愛映画の先を描く魚喃キリコ原作『南瓜とマヨネーズ』

「火花」宣伝画像① 魚喃キリコ/祥伝社・2017『南瓜とマヨネーズ』製作委員会

 終わりたくもなく、終わりたくないこともない。ただ寄り添うことしかできず、“恋人”という関係だけを頼りに暮らし続けている。

「一緒にいることが当たり前になっても、好きでいてくれる?」

 お夢を鳴らす音や、後悔を洗い流す音。恋愛に着地点を見出せない男女の、生々しい生活音がけたたましく響く。
 
 魚喃キリコの代表作の恋愛漫画を、『ローリング』などの冨永昌敬監督が映画化。
2012年に企画が立ち上がったもののなかなか実現に至らず、すでにオファーを受けていた主人公・ツチダ役の臼田あさ美が自らプロデューサーに相談し、本格的に映画化に向けて始動されたという。
ツチダと同棲する恋人・せいいちを太賀、元恋人・ハギオ役をオダギリジョーが務め、原作が発表されて19年が経った今、再び魅力的なキャラクターたちに命が吹き込まれる。

憂鬱なアンサンブルを鳴らす、二人暮らしの生活音

「火花」宣伝画像② 魚喃キリコ/祥伝社・2017『南瓜とマヨネーズ』製作委員会

 せいいち(太賀)が売ろうとする音楽の機材が3万円。ツチダ(臼田あさ美)がキャバクラの客に売った身体が3万円。 長年追いかけてきた夢と、一夜にして稼いだ身体がお金にすると同じ価値だなんて。そんな現実を叩きつけられる二人は、ケンカをするわけでもなく、家を出ていくつもりもなく、感情を押し殺したまま生活を続ける。

「わたしたちには、この部屋のほかに行くところがない。」

 ぬるい牢屋のように閉じ込める、二人暮らしの部屋の生活音が生々しい。せいいちが鳴らす虚ろげなギターや、ツチダが身体を洗い落とすシャワーは、決して一人では奏でられない憂鬱なアンサンブルとして鳴り続ける。
「好きだからこそ」…キャバクラで働く。夢を諦めようとする。そんな二人の理由がすれ違う様はもどかしくも切ない。