“戦争映画はグロテスクな表現が全てじゃない

映画『ダンケルク』のキャプション画像 2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED

 決してグロテスクな表現はない。『プライベート・ライアン』『ハクソー・リッジ』などのような人体破壊の描写が戦場の全てではないように、本作はあくまで音響やカットバックなど映画的手法で兵士の精神状態に近づく。見た目以上に心の中を探り出すような、全く新しい試みをしている。ここまで神経をすり減らすまで戦場の恐怖を体験する作品は初めてかも知れない。

 主演のフィン・ホワイトヘッドが魅力的だ。皿洗いのバイトから本作のオーディションで大抜擢となったという、スター性のないキャスティングがより名もなき兵士のリアリティを醸し出す。とはいえ、トム・ハーディも、本格俳優デビューとなるハリー・スタイルズも、この絶望感溢れる戦場の中で良い意味で個性を埋もれさせながら、記憶に残るような演技で観る者の心を打つ。

 女っ気が何一つなく、だからといって男気溢れる作品でもない。体温を感じさせない映像がより一層戦場の狂気を漂わせ、頭の片隅を支配するように記憶に残る。

 ここで描かれる“史上最大の救出作戦”。
緊張感の高まる世界情勢の中、本作が公開されることに意味を感じる。
人が人を殺すことが許される場所とは、どういうことなのか。その兵士たちに寄り添い、今一度確認する必要があるだろう。

ストーリー

 1940年、第二次世界大戦が本格化するフランス北端のダンケルク。ドイツ軍に包囲されたフランス・イギリス軍約40万人の兵士は、陸海空からの襲撃に逃げ場を失う。

 トミー(フィン・ホワイトヘッド)やアレックス(ハリー・スタイルズ)はそんな過酷な状況下でも生き延びる術を探す。彼らの母国イギリスが軍艦だけでなく、民間船までもが兵士たちのいる海岸を目指し、“史上最大の救出作戦”を行おうとしていた。
 
 民間船の船長ミスター・ドーソン(マーク・ライランス)は息子とともに危険を顧みずダンケルクを目指していた。イギリス空軍パイロット・ファリア(トム・ハーディ)も、不利な状況でも懸命に戦い続ける。
刻一刻と死が迫る中、兵士たちは地獄の戦場で何を見るのか――。

9月9日(土)丸の内ピカデリー 新宿ピカデリー他 全国ロードショー

監督:クリストファー・ノーラン
キャスト:フィン・ホワイトヘッド、ハリー・スタイルズ、ケネス・ブラナー、キリアン・マーフィ、マーク・ライランス、トム・ハーディ
配給:ワーナー・ブラザーズ映画
原題:Dunkirk/2017年/アメリカ映画/106分
URL:『ダンケルク』公式サイト

Text/たけうちんぐ

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